第38話 不目根田町 攻略作戦ー2

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 不目根田町のダンジョンに入る方法は二つ。


 東のトンネルから街に侵入するか、西のトンネルから街に侵入するかだ。


 攻略隊一向は東の長いトンネルから侵入することに決めた。


 決めては西トンネルに比べてトンネルの距離が短いということだった。


 しかし、あくまで西のトンネルに比べて比較的短いというだけであって、東のトンネルも距離が長いことに変わりはない。


 皆、トンネルが長すぎるため、最初からトンネルを崩壊させない程度に足に力を込め、トンネル内を一気に駆けて不目根田町のなかへと移動することになった。


 このダンジョンの攻略隊のメンバーは全部で30人。


 全員が一気に突入すると、いくらトンネルを崩さぬように気を使っていても破壊してしまう可能性が高いため、二人ずつ高レベルの者から順に入ることに決める。


 これは、万が一メンバー全員が不目根田町内へと入る前にトンネルが崩壊してしまっても、レベルが高い者たちから先に街へと入っていれば、最悪その者たちだけでダンジョン攻略を進めることが可能なためだ。


 いかんせん時間がかかりそうな方法だが、ここにいるメンバーは皆レベルが高く、かなりの速度で不目根田町まで移動することが可能なため、10分もすれば全員が町内へと侵入することができた。


 一番レベルの低い二人───茶髪でっぱの男とガタイのいい男は指揮官と共に最後に不目根田町内へと侵入する。


 ガタイのいい男はこれでもレベル23であり、このダンジョンに挑むものたちがいかに高次元な集団なのか思い知らされる。


 これだけいれば国を簡単に滅ぼせてしまいそうだ。


 そうガタイのいい男は、一瞬思ったが実際には滅ぼす国にもこのレベルの人材は複数おり結局簡単には滅ぼすことはできないだろうなと思う。


 ガタイのいい男は辺りを見回す。


 二人と指揮官が到着する頃には町にいるはずのモンスターたちは全滅していた。


「ははっすごいなみなさん。これは心強い。」


 ここにいるゲーマーの大半より強いはずの指揮官、ミミミツカがゲーマーたちを褒める。


 が、そばにいた一人のゲーマーは不満を漏らした。


「いや、俺たちが突入した頃にはすでに全滅してましたよ。奴が全部刈り取ったみたいです。」


 親指でそのゲーマーは「ヤツ」をさしながら答える。


「あぁ。あのレベル50越えの方ですか」


 指揮官は渋い顔をする。


 レベルが高い人間がいると無条件で喜ばれると一般人には思われがちだが、実際は違う。


 そもそも、この世界のほとんどのダンジョンはレベル50に達していなくとも攻略が可能なのだ。


 つまり、レベル50以上に達している人間というのは、早くレベル50以上に到達したいレベル四十台の人間たちにとって──レベル50を目指すゲーマーにとって邪魔な存在でしかない。


 事実、レベル50を超えてもゲーマーを続けている連中は資産を増やし続けることに喜びを感じる資産家のように、レベルを増やすことに──自らが強くなり続けることに快感を覚えているような人間が多かった。


 加えてレベル50を超えると経験値のバーがもうほとんど動かなくなる。どれだけ倒しても。


 レベル50越えの人間はそれこそ世界中で3桁ほどの人数はいるが、55を超える人間は世界で両指で数えられる程度だ。


 それくらいレベルを上げるための労力が飛躍的に上昇する。


 レベル60に到達した人間はまだ公には確認されておらず、大国が切り札として隠し持っていると噂されるくらいだ。



 そのような感じでとにかくレベル50以上にもなって活動しているゲーマーは厄介者として見られている。


 実際、このダンジョンに来た男も先にダンジョン内にいるモンスターを狩り尽くしてしまった。


「くっそ・・・こりゃハズレだな。経験値稼いで絶頂してる野郎が来ちまったぜ。」


 他のレベル40台であろう人間が愚痴をこぼし、辺りの空気がどんどん悪くなろうとしているところを指揮官は手を叩いてやめさせる。


「それではみなさん、無事に侵入できたので早速中ボスから討伐していきましょう。」


「中ボスはあっちの塔の方でいいんだな?」


 誰かが指揮官に確認する。


「ええそうです。」


 指揮官がそういうと同時に、飢えた獣たちのようにゲーマーたちは即座に塔の前へと移動していった。


 指揮官も足に力を込めて瞬時に塔の前へと移動する。


 側から見れば皆瞬間移動している超人集団にしか見えなかったし、実際、彼らは超人であった。


 塔の中へ全員入ると皆堰を切ったようにモンスターのいる広間へとなだれ込む。


 その様子を見て、ついていけない茶髪でっぱの男とガタイのいい男は互いの顔を見合わせた。


「ちっなんだよこれ。


 俺たちこんなところに来る必要あったんすかね。


 第一、こんなに40レベル台の人間呼んじゃってさあ。


 正直言ってもうあの50レベル以上のやつ一人でも十分じゃないっすか?」


 不満をこぼしながら二人もモンスターの広間の入り口までやってくると、そのまま勢いを緩めずに広間へと足を踏み入れる。


踏み入れてからすぐに先ほどまでの愚痴が間違っていることに二人は気づいた。


 現在の戦力でようやく自信を持って攻略できると言えるほどのレベルの敵が視界の先にはいる。


「な、なんなんですかあれ。


 まさか、成長してます?それとも13年前からあんなのがいたってことですか──?」


広間ではすでに激しい戦闘が繰り広げられており、茶髪でっぱの男たちがいる広間の後方には、負傷した者をすぐ癒せるように回復要員のゲーマーが待機していた。


広間の奥には三匹のモンスターがおり、左右は見たこともない左右でついになる鳥型の禍々しい光を放つモンスターがいた。


中央にも何かモンスターがいることは確認できたが、激しい戦闘が起こっているため、煙や爆発によってよく姿が見えない。


 茶髪でっぱの男が狼狽える。かなりの圧を感じるのだ。19レベルになったというのに、レベル1だった頃のように体が重かった。


「──あぁ。


 そうみたいだ。不目根田町の住民が気の毒だな。


 あんな奴と戦わざるを得ない状況になるなんて・・・こんなダンジョン、13年前の段階でクリアできるはずがねえ」


 ガタイのいい男もその場から動けずにいた。


違和感を感じた茶髪でっぱの男は自分のステータス画面を開く。


すると自分のMPが減少して行っていることに気づいた。


「うえっ!?何なんだよこれ。あのモンスターの能力なのか?・・・この広間全体にMPを減少させる効果でもついてんのかよ」


「・・・何?」


ガタイのいい男は茶髪でっぱの男の言葉を聞いて自分のステータス画面も確認してみる。


「・・・これは───


すごいなこのモンスター。どうやら噂で聞く、特殊能力を持ったボスモンスターがいるダンジョンみたいだな」


「───なんなんだそれ」


「何だお前、知らないのか。


ほら、この前も外国で見つかったって言われてた、まるでゲームの中のモンスターみたいに俺たちのステータス画面のゲージに干渉して『デバフ』やらを仕掛けてきたり、特殊な討伐法があって、それを用いないとどんなにダメージを与えても死なないっていう、訳のわからないモンスターたちのことだよ。」


「───あぁ。特殊な討伐法を用いなきゃ倒せないモンスターのことは聞いたことはあるぜ。


ただ、デバフは聞いたことがなかったな。


・・・実際経験すると恐ろしいもんだぜ。自分が干渉されないと思った部分を弄ってくるなんてよぉ」


茶髪でっぱの男と、ガタイのいい男は話しながらも、お互い目線を広間にいるモンスターから話すことができない。


 広間では地球を破壊しかねない攻撃の数々が放たれており、まだ広間に突入した際に奥に佇んでいた三匹のモンスターたちは一体も死なずに戦闘を続けていた。


 二人とも決してレベルは低くはないが、この様子では戦闘に参加した時点ですぐに死ぬことは考えずともわかる。


ただいつ流れ弾が飛んできても自分たちが避けることのできるように、じっとモンスターとそれと戦う者たちの姿を眺め続けていた。


「ボスのいる空間が異次元で本当に良かったすね。


 地球であんな戦いやられたら冗談抜きで真っ二つに割れちゃうんじゃないですか。地球。」


 二人が小言を漏らしながら銭湯の様子を見つめていると、何人か戦闘していた人間たちがこちら側に弾き飛ばされてくる。


 それを見て、同じく後方で待機していた回復要員のゲーマーが急いで彼らの治療を開始した。


回復要員のゲーマーの職業は魔法使いで、手には金色を基調とし、エメラルド色の装飾が施された上等な杖を持っている。


このゲーマーもレベル40以上のようで、茶髪でっぱの男と、ガタイのいい男が見たこともないような大きさの魔法陣を展開し始めた。

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