第31話 町の状況
「──どうしたんだよ今度は」
タクシードライバーが話しかけるも、今のアラタにはそれに応える余裕などなかった。
──とにかくミナと合流するんだ。町の人間たちのスキルを駆使して、モンスターを倒すしか方法はない・・・・
アラタは意を決するとドライバーになるべく急ぐように伝える。
・
高速を降り、不目根田町のあたりまで来ると付近に渋滞があることをナビが知らせた。
ラジオではダンジョン化現象についての説明と、現在この国で確認できているダンジョン化してしまっている場所が次々と読み上げられているようだった。
「危ないですので近づかないでください」と。
しばらくして不目根田町の名前も読み上げられた。同時に、タクシーは渋滞の中に加わり、停車する。
アラタの先ほどの様子とラジオから流れる不目根田町がダンジョン化した件を聞き、タクシードライバーもなんとなく状況の深刻さを察したようだった。
「・・・聞いてただろ にいちゃん。通行止めだってよ──」
タクシードライバーがそう言い終えるより前にアラタはタクシーの扉を開け放つ。
驚いた母親がびくりと動く。
「どこ行くの」
「おい!何する気だ!」
母親とタクシードライバーの声を背後に聞きながらアラタは足に力をこめると思いっきりトンネルに向けて走り出した。
前回と同じように道路のど真ん中、白線の上を突っ走る。
今回は前回よりも距離が長い。何しろ前回は渋滞に捕まってしばらく経っていた頃に目を覚ましたためだ。
現在時刻は午後3時4分。
───ミナたちが塔に入るのには間に合うぞ・・・
アラタはがむしゃらに走り続けた。色々と考えが頭の中を巡る中、とにかく妹と合流することだけを考える。
目の前に交通誘導を行う人間とフェンスを展開している途中の武装した兵士が見られたが、会話している暇などない。
アラタは一段と力を込め、彼らを飛び越える。
後方から彼らの声が聞こえたが聞く必要もない。この先に何が待っているのかは自分が一番知っている。
トンネルには町民の侵入を諦めて撤収する途中の兵士たちや、とりあえず置かれたフェンスがあったが、アラタはそれを次々と飛び越え、やがてトンネルの出口がダンジョンの入り口が見えてくると、さらに速度を早めて不目根田町へそのまま突入した。
前回と同じく
ダンジョン:不目根田町
推奨レベル:85
と記された画面が表示されるがアラタはそれを手で払うようにして視界から消す。
出していたスピードを街に突入すると同時に緩め、国道のど真ん中でアラタは停止する。
辺りを見回すとそこにはすでにモンスターたちの姿はなかった。
今思えばアラタの目の前にモンスターが現れなかったのは、アラタのレベル差による圧というよりは、町民たちがほとんど狩り尽くしてしまったというのが真実なのだろう。
おじさんによるとダンジョン突入時にはすでに皆のレベルが10レベル前後になっていたということから町には巨大な圧がうまれ、その時点でもう町の中で暴れ回るモンスターはいなかったと思われる。
アラタは国道の右側を見渡す。そこには町民たちが集結しているはずの道の駅があった。
アラタがそこへ向かうとそこにすでに人影はない。
アラタは一瞬取り乱しかけるが深呼吸をして気持ちを落ち着かせる。
すでに町民たちはここを出て塔の方へ向かったのだろう。
証拠に、道の駅内を見たところ、さっきまで大勢の人がいた痕跡があった。
道の駅の駐車場にもだ。そこらじゅうに開けたスナック菓子の袋やカップ麺のゴミが置かれていた。
大勢人がいる痕跡があったというが、そもそも道の駅にはいつもある程度の人はいる。
だが、それとは違う、明らかに通常よりもはるかに多くの人間たちがいたと思われる痕跡の数々がそこにはあった。
アラタは急いで道の駅を出て塔の方へと向かう。
向かう道中、塔の方へ向かって──おそらく町民たちを狙って跡をつけようとしたモンスターたちの姿があったが、アラタの圧に気づき、辺りに散っていった。
アラタは何匹かは逃さずに切り裂く。
が、倒しても貯まる経験値は微々たるもので、14レベルとなっているアラタの経験値のゲージはほとんど動かなかった。
「ダンジョンリミット」とやらがくるまでに必死こいてモンスターを狩っても、この調子ではレベル15に上げることすら難しそうだった。
アラタが塔の方へ近づいていくとにぎやかな人々の声が聞こえてくる。
にぎやかと言っても声の調子は良くなく、ネガティブな感情の渦をアラタはひしひしと感じる。
が、アラタにとってはとりあえず、まだダンジョンに突入する前の町民たちに合流することができてたまらなく嬉しかったのだった。
「おおおおおいっ」
柄にもなく、アラタは町民たちに向かって手を振って声をかける。
町民たちは何事かと思ってアラタの方を見るが、すぐに視線を逸らそうとする。
しかし、アラタと町民たちのレベル差は4ほどしかないものの、少しは圧を感じたようで町民たちは再びアラタの方を見る。
心なしか町民たちの目に光が宿ったような気がした。
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