第15話 スキル

 ドラゴンを倒し、アラタは他にも「ドロップアイテム」を入手したようだが、その確認をしている暇など今はない。


「やべっ今何時だ!」


 アイテムの確認はバスの中でもできる。


 一旦後回しにして二人は家の中へと駆け込んだ。レベルが上がった今、家に戻るのも爆速だ。


 家に戻り、壁にかかった時計を見るが、12時24分というとんでもない時刻を指しているのを見て、電池が切れたままかなり放置してあることを思い出し、ホッとする。


「テレビ!テレビテレビ!」


 そっとしたのも束の間、時間が確認できていないことに変わりはないので、先に家にたどり着いたアラタは慌ててリモコンを探しはじめた。


 すぐに後からやってきたミナはソファに置いてあるリモコンを落ち着いた様子で拾い上げると、電源をつける。


 時刻は6時32分を指していた。つけた番組はゲーム化現象について相変わらず視聴者の不安を過度に煽るように報じている。


「もういかないと!じゃあな!」


 アラタはあらかじめまとめておいた最低限の荷物を持つと家を出るために玄関へと向かった。


「ちょっ・・・待ってよアラタ。私は?」


「・・・」


 二人の間に少しの沈黙が流れる。が、アラタはそれを破り、ミナの方を見て真剣な眼差しで答えた。


「もうこんなにレベルが上がったんだ。俺一人で大丈夫だよ。・・・それに──」


 さらにアラタは続けて言う。


「─それに、俺は教祖をぶっ殺すつもりだ。この罪は俺一人で被るよ。バレなきゃそれが一番いいんだけどな。


 ──とにかく、お前を巻き込みたくないんだ。


 ずっとゴミみたいな生活をしてきた。その贖罪の時がやってきたんだよ。」


「・・・アラタ──」


「ごめんもう時間がない。その──話は母さんが戻ってきた時に3人でしよう。


 ・・・そしてさ、今年は母さんの誕生日を一日遅れになっちゃうけど家族三人で祝おう。」


 アラタはミナに背を向けると玄関を飛び出した。


 ───そうだ。これは何かの巡り合わせなんだ。


 全て親のせいということにすればそれまでだが、とにかく、アラタがミナまで暗い道へと引き摺り込んでしまった要因の一つとなっているのは間違いなかった。


 朝日がアラタを照らしている。


 初めて自分自身を世界が歓迎してくれているような気がした。思いっきり空気を吸いながら走る速度を上げ、地面に力をこめて飛ぶ。


 思ったより大きなドスンと岩でも落ちたかのような音と共に、アラタは地面を飛んでいた。


 街全体が眺められるくらいの高さ。改めてすごい力だ。


 アラタの真下には不目根田町の街並みがものすごいスピードで流れていった。やがて高度は落ちていき、新たは地面へと着地する。


 そのままアラタはかけていくとすぐに道路を挟んだ目の前にバス停があった。


 時刻は6時34分。普段なら10分ほどかかるはずが、あっとういう間についてしまう。文字通りひとっ飛びで。


 目の前の国道には多くの車が走っていた。


 この時間帯は運送用と見られるトラックが多く走っている。アラタは再び足に力をこめ、ものすごいスピードで走っていく車たちの隙間を見つけ、駆ける。


 すると気づいた時には目の前にバス停の看板があった。


 無事、引かれることなく国道を渡り切ることができたようだ。


 ───今の状態で50メートル走を行ったら一体何秒になってしまうんだろう


 そのようなことを思っていると、6時35分、首都圏行きのバスが排気ガスを撒き散らしながら到着した。


 アラタは慌てて向きを変えてバスに乗り込む。


 バスの中には年寄りが二人、自分たちの前に表示されているステータスを見ながら色々と会話している姿が見えた。


 それ以外にはスマホをいじる中年の男性が一人いるのみで、かなり空いている。


 アラタは後方の座席に座ると、バスの扉は閉じ、首都圏へ向けて動き出した。


 アラタは右手に映る朝日をぼんやりと眺めたのち、自分のステータスバーを表示させる。


 リセットしてから、アラタは再び教祖と戦うためにとりあえず考える前にレベルを上げていたのだが、ようやくここで一息つくことができた。


 レベルがかなり上がり、もう人とは呼べないような身体能力を手に入れたというのに、どっと疲れが襲ってきたような感覚に襲われる。


 肉体が向上しても、自分の精神状態は何も変わっていないということなのだろう。


 アラタは改めて自分のスキル、リセットの欄を開き、まじまじと見つめる。


 リセットしたとわかった時、もうレベルを上げるために外へと繰り出していたため、まだスキルの詳しい情報はじっくりと読めていなかった。


 というのも文章の初めのあたりにすでに全体の効果が書かれていたためだ。


 画面をスクロールするとスキルについてのより詳細な情報が何十行にもわたって書かれている。



 ・・・オンリースキル──?



 アラタはスクロールする手を止める。


 どうやらこの「リセット」というスキルは「オンリースキル」というものらしい。


 説明によると、この世界でこのスキルを所有しているのは自分だけということのようだ。


 ずっと持っていた「世界全体に影響するこのスキルは複数人が持っていた場合どうなるんだ」という疑問はここで解消されることとなった。


 同時に、わざわざ「オンリースキル」というものがあるということは他の種類の「スキル」もあるということを意味する。


 ──ミナのスキルについても帰ったら教えてもらおう。


 ──そして、教祖のスキルはどう言ったものなんだろうか


 さらに画面をスクロールしていくとリセットについての設定画面とその項目のようなものがいくつも見えた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る