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 振り返ると、そこから一人、また一人と人々が部屋に入ってきた。最初は数人だったが、次第にその人数が増えていった。最初は不安そうに扉を見つめるだけだった人々も、やがてその場に集まり、誰もが自分の意見を言い合うようになった。しかし、意見が一致することはなかった。


「赤もダメ、緑もダメ、どれも選べないよ」


 田辺が肩をすくめて言う。


「でも、選ばなければ、みんなこの部屋に閉じ込められるだけね」


「じゃあ、黄色の扉はどうだ?」


 誰かが提案したが、すぐに反論が返ってきた。


「黄色? それも怖いよ。見た目が派手すぎて、逆に危険だと思う」


 部屋の中に集まった人々の顔には疲れが見え始めていた。誰もがどの扉を選べば良いのか決めきれず、選択肢を前にして動けなくなっていた。選びたくない、でも選ばなければならないというジレンマが、彼らを苦しめていた。


「進まないとどうなるか、分かってるだろう?」


 高橋が改めて言う。その声には焦りが込められていた。


「どんどん人が入ってきて、部屋が狭くなっていくんだ。早く決めないと、みんなが苦しむだけだ」


 また新たに後ろの扉から人が入ってきた。もう、部屋には動けないほどの人数が集まり、息が詰まりそうになる。最初は余裕があったはずの空間も、今ではもうほとんどの人が肩を寄せ合って立っている状態だ。新たに入ってきた者たちも、どうしてここに来たのか、そしてどの扉を選べば良いのか、同じように迷っていた。


「人が増えている……」


 中村が震えるように言う。


「もう、選ばなければ動けなくなってしまう」


 部屋の中はますます狭くなり、空気も重く感じられた。誰もが呼吸をするのが辛くなってきたが、どの扉を選ぶべきか、それを決めることができなかった。選ばなければならないということは分かっていたが、選ぶことで何かを失ってしまうような気がして、誰も決断できなかった。


「どうしてこんなことになったの?」


 田辺がつぶやく。


「何も選べない。みんな、どれも選びたくないのよ」


 その時、後ろの扉からまた一人が入ってきた。人数が増えるたびに、部屋はますます窮屈になっていく。誰もが動けず、ただ息を呑んでその場に立ち尽くしていた。


「どんどん入ってくる。こんなに人が増えたら、どうなるんだ?」


 佐藤が叫ぶ。


「どうして、何も選べないんだ?」


 答える者はいない。部屋は、ますます圧迫されるように感じられた。誰もがその場で決断できないまま、人数だけが増えていき、空間はますます狭くなっていく。そのうち、ただ動けずに押し合いながら立っているだけになった。


 その後も人々は次々に入ってきたが、誰も扉を選ぶことはできなかった。

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