扉が多すぎる

高丘真介

1

 壁一面が扉で埋め尽くされている。そのどれもが異なる部屋に繋がっているようだ。しかし、何を選べばよいのか、誰もわからない。暗い部屋の中で、わずかな明かりが彼らの顔を照らしている。


「どの扉を開けるべきか、決めなくちゃならない」


 佐藤が言った。彼の声には、圧力が込められている。


 高橋が無造作に、目の前にある扉を指差した。


「この扉だ。直感的に感じるんだ、行こう!」


「待って、高橋」


 中村が静かに言う。


「直感だけではダメ。私は前に、一度直感で扉を選んで失敗したことがある。私たちにはもっと慎重に考える必要がある」


 田辺は少し動揺して、部屋の隅に向かって歩きながら言った。


「でも、無限に扉があるわけだし、どれも選ばないわけにはいかないでしょう。どれも正解だって、いつか思えるようになるかもしれないじゃない?」


「そんな楽観的な考え方は危険だ」


 佐藤が田辺を見つめた。


「状況はそんなに甘くない。どの扉を選ぶかが、生死を分ける可能性だってあるんだぞ。意見が一致しないと扉は開けられない。それがルールだと知っているだろう?」


「じゃあどうするんだ?」


 高橋が反論した。


「こんなに扉があって、どれも危険に見える。でも、選ばなければ何も始まらないだろう?」


 部屋はしんと静まり返る。無数の扉が彼らを見守るかのように、動かずにそこに存在している。


「冷静になって」


 中村が言った。


「私たちが本当に求めているのは、ただ一つの扉ではない。扉を開けて、進むべき道を見つけることが大事なのよ」


 田辺は少し笑って、


「でも、進まなきゃどこにも行けないじゃない」


「それはそうだけど」


 佐藤は少し考え込んだ後、深く息を吸い込む。


「では、こうしよう。ひとまずランダムに選んで、試しに開けてみる。もし違う部屋に繋がったとしても、それがヒントになるかもしれない」


「それが一番危険よ」


 中村が警告する。


「でも、それが唯一の方法かもしれない」


 佐藤は静かに言った。


 部屋の中の空気が一瞬、張り詰めた。無数の扉がじっと静まり返っている。誰もが一歩踏み出す勇気を持っていない。誰もがその先に見えるものに恐れを抱いていた。


「赤い扉がいい」

 

 唐突に、高橋が声を上げた。その目は扉を凝視していた。


「赤は進む力を象徴していると思うんだ。試してみるべきだ」


「赤? あんな扉、開けたくない」


 中村が強く反論する。彼女の顔には恐怖が浮かんでいた。


「赤い扉を開けた時、酷く恐ろしい目に遭ったことがあるの。もう二度と開けたくない」


「でも、次に進まないと何も変わらない」


 高橋が必死に言う。


「どんな扉でも、開けなきゃ何も始まらないんだ」


 その言葉に、誰もが答えを出せずに沈黙していた。選ぶことが怖いのだ。どの扉を開けても、過去の失敗と同じことが起こるような気がして、誰もが躊躇していた。


 その時、後ろの扉が音もなく開いた。

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