第2話 懐かしい仲間達

ゆっくり歩いて故郷の景色を目に焼き付けながら歩いていると約束のファミレスに着いた。

このファミレスへの道も小さい頃は長く感じたものだが、今になって歩くとあっという間。私もそれだけ成長したということなのだろうか。


ファミレスの駐車場を見るといつもの4人がもう集まっているのが見えた。

ちょっとゆっくり歩きすぎたかもしれない。



 「アカネー!」


 「お銀ー!!」


 「わわっ」


親友の青崎銀河に抱き着かれてしまった。実はお銀には父と母の騒動についても少し相談していたのだが、随分心配かけてしまったらしい。お銀は嬉しそうに笑っていた。


「改めて大学合格おめでとう!流石はアカネだねえ!」


「あははありがとー!お銀も凄い活躍だよねえ」


 静かで優しい笑顔。少しだけ掠れたような、でも聞き取りやすい声。……その声は、テレビで何度も聞いたことがある。


 そう――今のお銀は、声優アイドルとして活躍しているのだ。


 テレビアニメやゲーム、ラジオにバラエティ。最近では、なんと朝の女児向けアニメのプ〇キュアにも抜擢されたばかり。ニュースになった時、私は思わずスマホを二度見した。

 実はライブにも一度だけ招待されて行ったことがあるのだが――その時のお銀の“声”と“存在感”は本当に圧巻だった。舞台では明らかに異質で誰よりも目立っていた。

 まさか幼い頃から知るお銀があんな大きな舞台でスポットライトを浴びるようになるなんて。

 今思えば中学の頃から演技も上手かったし、声真似なんてまさに神業とも言える特技だった。顔も会う度にキレイになっている。でもまさかあそこまでとは思っていなかった。


「イヒヒヒヒ!いやあアカネ女史はお久しぶりでござるなあ!元気にしておったか?んん?」


私がお銀と話していると隣から長身メガネの緑山竜乃さんが話して来た。彼女は昔から絵や彫刻、美術全般が大の得意だった。高校ではコンクールで何度も賞を取っている才女だ。高校卒業後は難関美大に進学するらしい。油絵なんてちっとも描ける気がしない私にとっては本当に尊敬するばかりである。


「竜乃さんもお久しぶり~!元気だった?」


「イヒヒヒヒ!ああ拙者は元気だとも!芸術は爆発だからねえ!元気じゃないと爆発も起こせん!イヒヒヒヒ!!!」


竜乃さんも滅茶苦茶相変わらずだった。小学生の頃からこんな感じで、中学を出て多少は社交性が出たとは思っていたのだが、そんなことはない。その笑い方だけはなんとかしなさいと中学時代に何度も注意したのだが、結局一向に直らなかった。


「絵馬ちゃんも元気だった?」


「……うん。元気。茜ちゃんも久しぶりだね」


そこには背が小さく、ザンバラ髪を長く伸ばして目の下にクマを携えた少女がいた。

紫藤絵馬。彼女も小学校からの私の仲の良い親友の1人である。


「そだねー。まあでもあんまり久しぶりって感じもしないけど」


絵馬ちゃんとはしょっちゅうネットで一緒にゲームをしていたので、実は久し振りでもない。もっとも大学受験でゲームは封印してしまったので、そういう意味ではとても久しぶりだった。


「…ゲーム。また作ったからプレイしてね?」

「お、新作できたんだ?どんなの?」

「ホラー…茜ちゃんは綺麗な悲鳴を上げるから作り甲斐がある」

「やめて」


ホラーゲームは大の苦手なのである。ちなみに絵馬ちゃんは特技を活かしてゲーム会社に就職するそうな。どこって聞いたらいま私がやっているスマホゲームの会社で驚いた。


「あはは… 絵馬ちゃんのホラー本当に怖いよねえ」

「うん。怖い。私はいつもちびりそうになりながらプレイしているよ。…って黒ちゃんも久しぶりー!元気してた?」

「うん。相変わらず。アカネちゃんも変わらずで嬉しいよ」


そして最後に黒埼兎姫ちゃん。黒髪おかっぱの小柄な女の子。とても優しい子で、所謂どこにでもいそうな女の子だ。この変人達の巣窟の中での私の癒しと言える。彼女も中学から全く変わらずいい子だ。思わず頬ずりしてしまう。


「はあ…私にとってクロちゃんだけが癒しだよ…。私と同じ普通枠助かるよ~」

「いやアカネちゃんも全然普通じゃないからね?高校の偏差値70とか超えてるじゃん。化物だよ」

「イヒヒ!そうだぞアカネは凄いな?全然普通じゃないぞ?」

「…うんアカネは頑張り屋さん。よくやったね。アカネは凄いから普通じゃないよ」


そうだろうか?

勉強なんて頑張れば誰でもできるようになるのだから、別に大したことない気がする。


「さ、そんなことはいいから早くファミレス入るよ?ここに来るのも随分久しぶりだねえ」


お銀がドアを開けてくれた。

私達はファミレスのいつもの席に着く。

もう何度この席でお喋りしたか分からない。

ここには楽しい思い出しかない。

しばらくここに来ることも無くなる、と考えるとなんだか泣きそうになってしまった。



 「半年ぶり?いやもっとか? あっという間だったよね〜」


 二人の明るい声に、思わずこちらも笑顔になってしまう。彼女たちは昔からこんな感じで、勢いが良くて、テンションも高くて……でも、それがすごく嬉しい。


席につくと、自然と会話が弾んでいった。

話題は、近況報告。

まずお銀の話から始まったのは、もう当然の流れだった。


「今は“キラピュア☆フェアリッシュ”ってアニメの主役やってるよ」

「観た!ていうか、めっちゃ声違うよね!? あれお銀って言われなきゃわかんない!」


「でしょ?」


銀河が微笑んで髪をかき上げる。

相変わらず綺麗な顔をしている。

私は何とはなしにそんなことを考えていた。


それからみんなの近況報告を聞く。

みんな笑っていた。

ああ、この感じ。なんて懐かしいんだろう。

何気ない会話と、気の置けない仲間たち。

それだけで、まるで中学時代に戻ったような気がして――私は、ふと口をついて出た。


「あ、そういえばさっき中学校の卒業アルバム見てた。懐かしかったよー」

「お、アレかあ。ボク結構目立ってたよね?」

「うん。お銀は目立つからねえ」

「…私はあんまり映ってない」

「イヒヒ!絵馬はいつも端の方にいるからだ!もっと堂々としろ!」

「…無理」


あはは、と笑うみんな。


「あ、それでね気になったんだけど、最後の集合写真に私しか映っていなかったんだけど、あれって結局何だったの?」


ピタッ


お銀と竜乃さんと絵馬ちゃんの動きが止まった。

そんな3人をクロちゃんが不思議そうに見ている。


お銀はゆっくりとカップを置いて、何も言わない。

空気が変わったのを感じる。


今までの和やかさがまるで嘘のよう。

一気に張り詰めた静けさに変わっていく。


目の前の三人が――何かを隠しているのは明らかだった。


「……ねえアカネ。ボクは知らない方がいいこともあると思うんだよ」

「イヒヒそうだぞアカネ女史。キミのような純真な子は知らない方が良いと思うのだ拙者は」

「…うん。私もそう思うな。アカネは優しいから知らない方が良いと思う」


こんなことを言われて気にならない人間が果たしているだろうか?


「んな言われ方したら気になるじゃん!いいでしょ教えてよー!」

「うーん…」


向いに座るお銀たちはヒソヒソと相談を始めた。

そんな3人を私とクロちゃんは不思議そうに眺める。


10分ほど話していただろうか?


お銀が意を決したように言った。


「…本当にいいのアカネ?多分聞いたら後悔するよ?」


お銀のあまりに真剣な様子に少したじろぐ。

でも気になる。

お銀がこんなことを言うことなんて初めてのことだ。

あの時一体何がどうしてああなったのだろう?

気になる。

気になり過ぎる。


だから私は言った。


「お願い」


 このままだと大学に行っても気になって勉強にならないかもしれない。

 そして、もう逃げたくなかった。


「私ってあの時中学校行ってなかったじゃん?一体あの12月から3月の間に何があったの?」


沈黙。


しばらくの間お銀は黙ってこちらを見ていた。

が、やがてお銀は根負けしたようにふっと笑った。


「まあ昔のことだしいいけどさ。アカネがどうしてもって言うなら、止めないよ」


そしてお銀は念を押すように――でもどこか懐かしそうな目で言った。


「それじゃあ話してあげる。あの中学三年生の冬の間に何があったのかを」


お銀は全てを話し始めた。



…そしてすべてを聞いた時、私はこう思ったのだった。


「聞かなきゃよかった」と

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