【KAC20254】赤い女の夢

内田ヨシキ

赤い女の夢

 あの夢を見たのは、これで9回目だった。


 初めて見たのは3歳のときだ。


 赤い女の子が僕の上に伸し掛かり、顔を押さえてジッと見つめ続ける。あの女の子の狂気に血走った目を思い出すと、今でも震えが上がる。


 あの日以降、僕は夜に頻繁に金縛りにあうようになった。夢は見なくても、どうしてもあの目を連想して、怖くて眠れなかった。


 3年毎に、ひときわ強い金縛りとともにあの夢を見るようにもなった。


 6歳のときも9歳のときも12歳のときも。


 見るたびに女の子は成長していた。狂気的に血走った目はそのままで。


 その頃から不思議なことが起こるようになっていった。


 仲良くなった女の子が事故に遭うのだ。階段から落ちたり、車にぶつけられたり、駅のホームから落とされたり。


 きっとあの子のせいだと思った。15歳のとき、怒りが恐怖を上回り、夢の中で激しく抗議した。


 次の瞬間、それ以上の怒りと狂気が僕を罵った。言葉にならない声とともに、全身が激しい衝撃に襲われた。


 翌朝、全身に痣ができていて、腕の骨にはヒビが入っていた。


 逆らってはいけないのだと、震え上がった。


 女性と距離を置くことにして、灰色ながら比較的平和な日常が続いた。日々の金縛りももう慣れたものだった。


 でも夢には慣れない。行為がエスカレートしていったからだ。僕の眼球を舐めたり、鼻に舌を入れたり、耳に指を入れたりする。体の内側まで蹂躙されそうで、だけど抵抗もできない。恐怖に震えるだけだった。


 そして今回の9回目、27歳の夢では、なぜかあの女は大人しかった。僕に伸し掛かり、狂気的な目を恍惚と細め、自分の腹を撫で回しているだけだった。それさえ僕には恐ろしかったが。


 けれど不思議なことに、それから数カ月後、ぱったりと金縛りにあわなくなった。


 もしかしたら急な転勤のせいかもしれない。地元を離れたおかげで、あの女は僕を見失ったのかもしれない。


 解放された!


 そう思って失った青春を取り戻すかのように、日々を謳歌している。


 なのに今。


 寝床ではなく、夜の帰り道で金縛りにあった。


 足元には、狂気的に目を血走らせた3歳くらいの赤い幼女がいた。


 そういえば……僕はもう30歳だった。


 そして――。


「ミツケタ」


 背後から声が

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