不幸な少年と寂しがり屋の妖狐

わっしー

前編 不幸な少年と寂しがり屋の妖狐

逢魔が時、人々は夜を恐れた。

夜には人ならざる者が現れるという。

人はそれを恐れてきた。

でも、僕は知っている、彼女はとても優しいということを・・・。

今日も僕は古びた神社に来ていた。

こんな夜に幼い子供が出歩いていたら普通の親なら心配するだろう。

でも、そんな心配は必要ない。

僕はいらない子だから・・・。

僕の父は僕が生まれるころには居なくなっていた。

母は僕に関心を持たずに毎夜違う男と遊び歩いていた。

僕は誰にも望まれず生まれてきてしまった・・・。

学校にも行かせてもらえず、わずかな菓子パンのみを与えられて命を繋いできた。

そんな日々に嫌気がさして逃げてきた先がこの神社だった。

そして、出会ったのだ・・・彼女に・・・。

「今日も来たのかお主は・・・。」

鳥居の前でそう呆れた声で話しかけてきたのはキツネ耳の少女だった。

「うん・・・君に会いに来た。」

「まったく・・・。」

そう言いながらも彼女はそっと僕の手を握ってくれる。

「ほら、こっちに来い。」

そう言って僕を境内に入れてくれる。

次の瞬間、景色が変わった。

穏やかな日差しが僕たちを包む。

「本当に物好きだな、お主は・・・普通の人間なら妾の姿を見ただけで恐怖に慄くのに・・・。」

「なんで?

君はとても優しいじゃないか・・・。」

「本当にお主は・・・///」

確かに普通の人間とは違う姿をしている彼女だが、僕が出会ったどの人間よりも優しかった。

「ほら、こっちに来い。」

そう言って縁側に連れて行くと尻尾を差し出す。

「お主、これ好きだろ?」

「・・・うん。」

僕は彼女のふわふわのしっぽに抱き着く。

「うっ・・・///

 もう少し、優しくしろ馬鹿者が・・・///」

「ごめん・・・。」

「まったく・・・別に怒っていないからそんな顔をするな。」

そう言って彼女は僕の頭を撫でてくれる。

穏やかな時間が過ぎる。


「そろそろ帰る時間だぞ・・・。」

「・・・やだ。」

「しかし、人間がこの世界に居られるのは少しの時間だけだ。

 それ以上いればお主はこの世界に取り込まれて下界に戻ることは出来ない。」

「・・・戻りたくない。」

僕は彼女に抱き着く。

「お主の事情は知っている・・・しかし、この先もしかしたら幸せな未来が待っているかもしれない。

 大人になれば新しい出会いが・・・。」

「僕は君が好きだよ。」

「・・・世迷いごとを。」

離れようとする彼女を抱きしめるとそのまま唇を奪う。

「僕は本気だ!

 この先、どんなに幸せな未来が待っていたとしても傍に君が居なければ意味がない!

 僕にとって君は全てなんだ!」

「・・・しかし、それでもダメだ。

 これ以上は本当に・・・。」

「・・・やだ。」

僕は彼女をその場に押し倒すと服を剥ぐ。

「ずっと君といたいんだ!

 どんなことをしてでも・・・。」

何かを言おうとする彼女の唇を自身の唇で塞ぐ。

彼女の全てを手に入れるため僕は最低なことをするのだった。


夜伽を終えて、妾に抱き着いて眠っている小童を見つめる。

必死に妾の求めるその姿に愛おしさが込み上げてきた。

妾も人恋しかったのかもしれない。

こやつを最初に見たとき、あまりにも悲しいオーラを纏った小童が気になって話しかけてしまった。

話している内にこの小童の存在が妾の中で大きくなっていった。

それこそ、閉じ込めたくなるほどに・・・。

でも、人間と妖狐である妾では寿命が違い過ぎる。

近い将来、悲しい別れが待っている。

そうなるくらいなら・・・そう思っていたのに・・・。

「もう、離してやらんぞ・・・♡」

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