デジャ・ビュ
深川我無
あなたは誰ですか?
あの夢を見たのは、これで9回目だった。
「理沙どうしたの? 難しい顔して」
「うーん。何か同じ夢ばっかり見るんだよね」
「同じ夢?」
彼が差し出したコーヒーを受け取って力無く笑う。
「たいした話じゃないんだけど、家の中に知らないお爺さんがいるの。ちょうどその辺り」
「怖っ……俺の席じゃん」
彼は、何も無い空間を見ながら顔を顰めて言った。けれどやはり何があるわけでもなく、何かを感じることもなかった。
それは私にしても同じで、夢はあくまで夢なのだ。
それなのにどうしてか、妙な引っ掛かりが消えなくて困ってしまう。
「古い家だったしね。リフォームしたから分からないでしょ?」
「そうなの?」
「うん。理沙と一緒になる3年くらい前に親父が突然リフォームするって言出だしてさ、やり遂げて気が抜けたのか、その後すぐに亡くなったんだよ。母さんもそれが堪えたみたいで、認知症が一気に進んで、俺だけが住んでたってわけ」
「全然知らなかった。祐希そんなこと一つも言わなかったでしょ?」
「うーん。わざわざ話すことでもないかなって」
亡くなったお義父さんが気になった。
もしかすると、この家に未練が残っているのかもしれない。そんな気がした。
「お義父さんの写真って残ってる? もしかしたら、お義父さんまだこの家に住んでるんじゃないかな?」
「親父が……? あぁ……でも親父ならあり得なくも無い気がする。待ってて」
そう言って祐希は笑い、物置の方に歩いて行った。しばらくして古いアルバムを抱えて戻って来ると中を見せながら言った。
「これが親父。お袋は病院で見たよね? どう? 同じ人?」
思わず固まった。
それはやはり夢に出てくる老人にそっくりだった。
「理沙?」
「ごめん。びっくりして……やっぱりお義父さんだ……夢に出てくる人は」
「親父、夢でどんななの? 何か話してた?」
「ううん。無表情で椅子に座って、弱にした電気の下でじーっとこっちを見てるの。こんな感じ」
私は照明を弱にして、椅子に腰掛けた。
祐希はそれを見て首を傾げて言う。
「でも、なんで理沙の夢なんだろう? 面識も無いし、言いたいことがあるなら俺に言えばいいのに」
「自分の家に知らない女が住んでると思って怒ってるのかな……?」
「そんなの……」
祐希はお義父さんを責めるように投げやりにそう言ってから、再び口を開いて言った。
「供養をお願いしてるお寺の住職さんに、お祓いを頼んでみるよ」
「え……? でもお義父さんだよ? 祓うってそんなの」
「俺からしたら、理沙の方が大事なの。だいたいホラー映画とかだと、理解のない夫のせいで大変なことになるだろ? そうはなりたくないわけ」
そう言って彼はお寺に連絡をした。
住職さんは2日後に来てくれるらしい。
それでもやはり、私の胸につかえた引っ掛かりは消えなかった。
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