この一声を口にできたから。

いなずま。

あの夢を見たのは、これで9回目だった。


真っ白な棺桶に、私がぐったりと眠っている。

青白くなった肌に血は通っておらず、そんな私の周りに白い花が添えられていく。

添える人々は、皆涙を流して、悲壮感を漂わせて、私の名前を叫んでいた。



◇◆◇◆



窓の外から鳥の囀りが聞こえた。

布団の中で疼きながら顔を出すと、部屋の明るさで、もう朝か、と気づく。

アラームが鳴る前のスマホを手に取って、ずーんと閉め切っていた部屋の扉を開け、廊下に出た。



学校に着き荷物を片付け、誰とも話さず席についた私は、左手を頬杖にして窓の外を眺める。

登校が遅い生徒たちが横並びになって玄関の方へ歩いていった。

わーわーと騒いで、少しうるさい。

それにしても。

(どうしてあんな夢を見るんだろうか)

ここ三ヶ月ほど、定期的にあんな夢を見る。

明らかに、私が死んで、お葬式が開かれていた時という夢だ。

不吉だった。

私は死のうなんて、これっぽっちも考えていない。

なのに、なんであんな悲しい夢を見るんだろうか。


あの夢を見た日は、1日中そのことを考えて、勉強に身が入らない。

今日も例外ではなかった。



特徴的な夢でも、夢は夢なのでやがて記憶は薄れていく。

ただ、自分の葬式の夢を見た、という事実だけが積み重なって、私の脳内に刻まれていくのだ。

そして、夢の詳細はどんどん透明になる。

添えられた花の形。

私のために泣いた不特定多数の人が誰なのか。


それに、あの夢は現実的ではない。

あまり話したことのない従姉妹もいたような。

クラスの人もいたような気がする。

私は、クラスでは孤立しているし、愛想も全くないのだ。

だから、だからあれはーーー。


「ねぇ今日遊び行かない?」

「いいよー。新しくできたあそことかーーー」




ーーー私の願望だった。




そんな何気ない会話が、一言が。

私にはとっても羨ましく見えていたんだ。

自分が死んだら、周りに沢山人がいて欲しいと。

喜びも哀しみも、分かち合うような仲間ーーー友達が欲しいと、私は心の奥で、切に、切に願っていたんだ。

気づかないふりをしていただけ。

だって、いつか会えなくなってしまうことが、怖かったから。


でも、多分もう大丈夫だ。


「あの……!」


この一声を、口にできたから。

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この一声を口にできたから。 いなずま。 @rakki-7

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