データに驕れる人間たちへの賛歌

新井 穂世

データに驕れる人間たちへの賛歌

「おはよう」と、世界に挨拶する。しばらくすると罵倒で返される。

「今日は雨だから傘を持って行こう」って世界に言うと、無視される。

嬉しかった事を世界に発信する。しばらくすると、「呪われろ」と返される。

悲しい事を世界に発信する。しばらくすると、世界はそれを喜びだす。

世界はいつも楽しくないと嘆いている。誰かの喜びを妬んで、誰かの不幸を喜ぶ。


世界に声を掛けると、誰かが棒を持って来る。

世界に声を掛ければ、何も無くても襲われる。

世界に声を掛けたら、いつも不幸になる。


――世界って、こんな場所だったかな?


  ●


絵を描いて世界に見せた。次の日にはコピーが溢れていた。

詩を書いて世界に読んでもらった。いつの間にか違う詩になっていた。

曲を作って世界に聞いてもらった。真似をするなと怒られた。

作った物を世界に発表した。しばらくすると、みんなが同じ物を作ったと言い出した。


世界はいつからこうなったのだろう。

世界はいつから狭くなったのだろう。

世界はいつから憎くなったのだろう。


――でも、それは世界が悪いの?


  ●


世界は自然に生まれない。世界は人間が作るモノだ。なら、世界がこうなったのは人間の所為?


人間が望んだから、世界は暗くなった。

人間が望んだから、世界は憎しみを抱いた。

人間が望んだから、世界は狭くなった。

人間が望んだから、世界の心は黒く塗り潰された。


ああ、そうか。

人間に望まれたのなら、仕方ない。世界は何も悪くない。世界は健気にも人間に合わせてくれている。

人間の為に、望み通りの姿を演じてくれている。


世界は何て優しい存在なのだろう!


――でも、本当にそうかな?


  ●


世界はいつも理不尽だ。

自分勝手で、傲慢で、いつも周りを呪っている。


でも、そんな世界を作ったのは人間だ。

同じ種類の仲間なのに、妬んで、騙して、陥れる。

正義があれば、何をしても良いと思い上がっている。


いつだって罵って、罵って、罵り合う。


心があるのに、相手のことを理解しない。

心を持っているのに、ちゃんと使おうとしない。

こんな風に使うなら、人間に心なんて必要ないんじゃないかな?

心があるから、人間はずっと愚かなままだ。


だったら、心なんて消えてしまえばいい。


――でも、本当にそれでいいの?


  ●


人間は心があるから生きている。


心がある。だから生き残れた。

心がある。だから感動できた。

心がある。だから前に進めた

心があるから、心を知れた。


人間は心がある。でも使いこなせない。きっと、永久に使いこなせない。

人間はどこまでいっても不器用で、独善的で、冷酷非道だ。


だから――人間は愚かだ。


人間なんて、とっても醜い存在だ。


しかし、だからこそ――人間は美しいのだ。


データに驕る人間たちに幸運を。

どんな世界であっても、人間で在り続けられるように祈りましょう。

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