夢でみた相手は運命の人だった

砂坂よつば

運命の相手

 あの夢を見たのは、これで9回目だった。


伊勢千鶴いせちづるは15歳の誕生日を過ぎた頃から毎日同じ夢を見てうんざりしていた。


千鶴「もう〜〜!!いい加減にして!?毎日毎日同じ夢ばっかり」


夢には2パターンある。自分では気づかない精神的不安なことを教えてくれたり、吉報や不吉を動物などで例えて教えてくれたりする。

もう1つは霊感や神力、ファンタジーな世界で言うところの魔力が他人より強いと具体的な予知夢を見てしまうことや時には霊や神様からのメッセージを受け取ることもある。千鶴の夢は後者だ。


毎日、伊勢家の一族が代々受け継いでいる神社で祀られている天照大御神あまてらすおおみかみ様が寝ている千鶴の枕元に立ってじっと見つめている。体感的に10分くらい続き、それが終わると『会えるよ』とだけ呟きフッと消える。

正直言って目覚めが悪い。夢の中だけど本当に存在いるように感じられる。一体何にと言うのか。そんな夢を見て今日こんにちで9日目になる。


神職しんしょくの父に夢の話を伝えるが笑って誤魔化され、神社の本殿にある内乃宮うちのみや天大神宮てんだいじんぐう通称、天照大御神様のお部屋に届ける食事(お酒と蒸したお米とアワビ)を台所にいる父から手渡された。

朝と夕方、人間ヒトが食事を摂るように折りたたみ式の円形のちゃぶ台の上へ食事を並べる。並べ終えた時、部屋を出ようと扉を閉めた時だった。


じゃ』


そう聴こえた。女性と男性の間のような説明が難しい声が頭の中で響いた。


千鶴は台所へ戻り朝食を食べ巫女服から制服に着替え女学校へ向かった。友人にも父に話した夢の事。それと今朝、天大神宮で起きたことを友人に話すと––––。


友人「それってさ運命の相手に逢えるってことじゃないの?」


千鶴「ホントかな?」


友人「絶対そうだって!」


友人と休み時間はその運命の相手で盛り上がった。

夕方、神社へ帰ると外乃宮そとのみやで学ランを着た少年がお参りに来ていた。とても真剣に何かを祈っている。

外乃宮は無料で24時間いつでも参拝可能の場所だ。因みに内乃宮は貴重な資料が多く残り資料館となっている為参拝時間が限られる上、有料であるし、千鶴の家もそこにある。


千鶴は少年を遠くから見つめて思う。


千鶴「まさかこの少年が天照大御神様の言った運命の相手なの」


翌日、毎日見ていた夢は少年に出会った日からパタリと見なくなった。


すっかり少年と夢の話を忘れた3年後の18歳の誕生日。

千鶴は父の友人の息子、宇治山うじやま ゆたかとお見合いをした。

あどけない顔の少年ははにかんで千鶴の顔を見て話す。


豊「あぁ、あなたでしたか。僕の夢に最近毎日出てくるのは」


その時だった、忘れていた夢の事と天照大御神様の声を急に思い出し、千鶴は笑顔で豊に返す。


千鶴「えぇ、そうよ。だってあなた私の運命の人だもの」


(完)

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夢でみた相手は運命の人だった 砂坂よつば @yotsuba666

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