雨が降る
骨々
雨が降る
日笠は誰にでも明るく優しく接し、多感な
同級生を勘違いさせてしまうタイプの少女だ。
勉学も運動も72点分くらいでき、学校にいると2日に一度は名前が聞こえてくるほどの人気も持っている。
そして何より笑顔が魅力的だ。
明るい人、所謂"陽キャラ"な彼女はここ3年間
ほど、そんな自分にも他者にも一抹の不快感を
覚えていた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
ある湿り気を帯びた匂いが漂う日に
教室で日笠は同性の友達と話していた。
人間とエンカウントしたら話すだけの作業
ほとんど中身のない話をこれでもかと
膨らませる。そうしたつまらない平和を過ごしていると
どうしても目についてしまう、視線を横取り
してしまう存在を見つけてしまった。
鹿賀という男だ。
いつもいつも崩れた微妙な微笑みを浮かべ、
同性の気の強い同級生に上目遣いで媚び諂い、いじめられ、その後気まずそうに教室でひとりぼっち過ごしている、彼を見ていると胸が締めつけられる。日笠は声をかけることにした、そうすると、彼は冷たい目で表情で仕草で睨みつけてきた。
「....何か用ですか?」
「う、うん、ちょっとお話でもどうかなって
例えば昨日見たお笑い番組とか...」
「はぁ」
「え」
「今までわざわざ言わなかったけどさ、なるべく関わんないで欲しい。あと視線キモいから
見てくるのやめてほしいな」
「え、あ」
「君のこと本当に苦手なんだよね
なんていうか無条件で無欲で無料な君の優しさがなんていうか、側から見てて胡散臭くて
安っぽくて苦手で、あと表現しづらいけど君を見ている時に感じる出汁の入ってないお味噌汁を飲んだ時のような微妙な違和感が苦手なんだよね、本当に好きになれない」
窓を強く叩く雨音が聞こえる。
心臓の鼓動を感じる、息が肺を通る
目に入る映像がタイムラプス映像のように
映る
思考が視線が止まる
ただの一瞬だけその瞬間だけは日笠の世界に
人は鹿賀だけが存在していた。
日笠の胸に鋭く突き刺さった。
「なんか、ほんと、ごめんなさい」
その後は取り繕っていつも通り授業を
過ごした。そして"彼"に会いたくなった、
会わないといけない気がした。
ひたすらにただひたすら校内を巡った。
誰もいないはずの屋上で鹿賀を見つけだした。彼は、降りしきる雨音の中、傘もささずにただ悠然と空を見上げていた。
「ねぇ、鹿賀、とりあえず校内に入らない?
風邪ひいちゃうよ」
「...一人の時間が台無しだよ」
そそくさと二人は空き教室に入っていった。
ずぶ濡れの鹿賀に日笠は問いかける。
「どうしたら私が苦手じゃなくなる?」
タオルで頭を拭きながら
すごく面倒くさそうに鹿賀は答えた
「どうしようもない、無理です。
ていうかそれよりも君さぁ、なんていうか
ほんとにさぁ、何でそんなに視線でも
物理的にも付き纏ってくるわけ?、他の子
も怪訝な表情してたよ」
鹿賀は相変わらず冷たい、
そして今回の言葉は粗暴になった。
だが瞳の奥にあった嫌悪や拒絶感が
薄れているように見えた。
日笠は少しだけ口角が上がった。
「はぁ?、え、どういうこと?なんで喜ぶの?
こんなに罵ってるのに、呆れてるのに」
「ご、ごめんえっと、その、漏れ出しちゃってなんていうか、、、ただ嬉しくなっちゃって
さっきの顔は、忘れて欲しい、ほんとごめん」
彼女の言葉が表情が雨に溶ける。
「.....まぁ正直腑に落ちないけど、流してあげる
それでさ、なんでそんなに僕のことを気にするの?」
「.....私のことちゃんと見てくれてたから」
「...それだけで?」
「うん」
「急だけど、私雨になりたいの」
「本当急だなぁ....で、なんで?」
「自分の気持ち悪さも他の人の嫌なところも
洗い流してくれないかなって、消し去って
くれないかなって時々思うんだ。
そんな時に自分が雨だったらって思うんだ
雨って、全部を洗い流してくれるでしょ? 」
「しょうもない話、つまらんね」
「辛辣だねー」
「まぁー、共感はできないけど理解は出来る」
「本当に?、なら話してよかった」
「そう、....ならまぁ暇だし気が向いたから
少しくらい聞き役してあげるよ」
「ほんとに?じゃあ、、、、
その日、二人はずぶ濡れのまま、初めて本音
を話し合えた。お互い気まずそうに。
鹿賀の拒絶は完全には消えないかもしれない。日笠の自己や他者に対しての不快感も簡単には消せないかもしれない。
でも、雨が降った空の向こうに、小さな光が差し込むように、二人の間にも少しだけ、温かな隙間が生まれていた。
二人は雨が降るのを待つ、ひたすらに
その雨が少しだけなにかを溶かして流して
くれると信じて。
雨が降る 骨々 @honevone
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