10番目の告白

穂辺 文

10番目の告白

 あの夢を見たのは、これで9回目だった。


 1回目は、青山あおやま 陽葵ひまり

綾人あやと! あたしと付き合ってくれる?」

 人懐っこくて人気者の青山は、夢の中でも相変わらずのあざとさで、俺の顔を覗き込みながら告白してきた。


 2回目は、石田いしだ 流花るか

「アンタ鈍臭いから……わ、私がそばにいてあげる」

 普段クールな石田は、意外にも照れながらの告白で。ギャップだな、なんて思っていたら筆箱で頭を殴られた。


 3回目は、近藤こんどう 絵梨華えりか


 そして4回目、5回目と続き……。

 どういうわけだか、俺はここ数日、夢の中で出席番号順にクラスの女子に告白されているのだ。


 そして今朝の夢で9回目、クラスのマドンナ藤井ふじい 咲良さくらだった。

「ずっと好きだったの」

 にっこり微笑んだ藤井は、やっぱり抜群に可愛かった。にやけそうになる頬を抑えながら、教室へ向かう。


「あ、おはよう」


 小さな声でそう声をかけてきたのは、隣の席の星野ほしの 侑芽ゆめ。「おはよう」と返しながら、少しそわそわしてしまう。なぜなら、星野の出席番号は10番。つまり今日は彼女に告白されるはずなのだ。

 俺は気付かれないように横目で星野を眺める。肩甲骨あたりまである髪を後ろで三つ編みにし、分厚い眼鏡をかけた、いかにも大人しそうな地味な女の子。

 

(星野はどんな告白をするんだろう……)


 物静かな彼女が自ら告白する姿など、なかなか想像できない。けどまあ、きっと小さな声でもじもじと告白してくるんだろう。俺は静かに教科書を机の中にしまった。



 ***



 ふわふわとした意識の中、教室の中には俺と星野だけが立っていた。その時点で、「ああ、これは夢だ」と気付く。果たして、星野はどんな告白をしてくれるのか。俺は冷静に星野を眺める。


「綾人君、来てくれてありがとう」


 想像通り、手を前に組んでもじもじと顔を赤らめる星野。


(さあ、どんな告白をしてくれるんだ?)


 俺は星野の次の言葉を待つ。

 ……だが、おかしい。いつまで待っても もじもじするばかりで、一向に告白してくる気配がない。

 大人しい子だとは思っていたが、ここまでだったとは......。


 そうしている間に、だんだん俺の意識が不安定になる。このままでは、告白される前に夢から覚めてしまうだろう。俺は焦りを覚える。

 

 何してるんだよ。早く告白しろよ、星野。

 

 なあ、休み時間いつも漫画を読んでいる星野。

 

 実はBLが好きなことなんか気にしないから、早く告白しろよ。

 

 真面目そうに見えて、授業中こっそりノートに落書きしてる星野。

 

 早くしないと夢が終わってしまうだろ。

 

 毎朝、挨拶してくれるみたいに、小さな声でもいいから。

 

 星野の声なら、どんなに小さくても聞こえるんだから、早く告白しろよ。

 

 おい、消えるなよ、星野。星野......!

 

 どこにも行くなよ......、

 

「好きなんだよ、星野......!」





「え......?」


 左側から聞こえてきた声に、急速に意識が引き寄せられる。目を開けたら、そこはいつもの教室だった。そして、目をまん丸に見開いた星野の顔。


「今の、ほんとう……?」


 どうやら、俺の告白は、正夢になってしまったらしい。


(ああもう、どうにでもなれ)


 ここまできてしまったら、もう誤魔化しようもない。

 俺は深く息を吸って——


「そうだよ! 好きなんだよ! 俺と付き合えよ!!」


 ザワザワとしていた教室が一瞬で静まり返る。俺の声は、思っていたよりもでかかったみたいだ。


 バクバクと今にも飛び出してしまいそうな心臓を抑えながら、星野の顔を見る。



 ああ。


 やっぱり、現実は夢のようにはいかないらしい。


 だって、目の前で顔を真っ赤にして満面の笑顔で頷く星野は、夢の中よりもずっと。


 ずっと可愛い。




 —— END ——

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10番目の告白 穂辺 文 @honobe_aya

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