あるWeb作家の独白

神澤

独白

最後の一行を書く。

『あなたはあなたでいいんだよ』

こんなの自分が言われただけじゃないか。

やっと書き終わったが、到底自分から出てきたものとは

思えないほどきれいな言葉でできている作品。

私が書く作品は、

世界は捨てたもんじゃないと詠う作品ばかり。

人が持つ感情がいかに脆く、危うく、素晴らしいかを綺麗な言葉と表現で綴っていく。

そんなことも思ったこともないくせに、朗々と書いちゃって…自分でも心底笑える。

人生、そんなに素晴らしいもんでもないことを知っているし努力がすべてではないしどんなに優れた才能を持っていても恵まれなければ発揮することもできないし

そもそも人格が良くなければ何をしたってどうにもならない。

知ってる、全部知ってる。

だけど、こんなドス黒い腹んなか持ってるやつが書いた作品でも、感動する奴はいるし、救われているやつもいる。

どうも、この世界は———意地悪だ。


 私はしがないWeb小説家だ。

お金を稼いでいるわけではないので完全に趣味の範囲だが、それなりに人気のようだ。

作品をアップすれば、それなり人数に見てもらえるし評価ももらえる。

言葉がきれいだ、表現がすき———等々、励ましの言葉を頂ける。

中には言いたいだけのアンチや的確に嫌なとこ突いてくるやつもいる。

そんなのは造作もない、日常だ。

そう…現実に比べれば造作もない。


 現実の私は社会人だ。

高卒で働きだしてはや数年。

社会人としてはそれなりの経験をしたつもりだ。

入社半年で栄転(単に社員の数が少なく、ペーペーでも責任者にならざるを得ない状況だった)したり、転職したり。

今では、十個上の後輩に「姉さん」と呼ばれるくらいになった(それもおかしな話だが)。

向いていないと痛感しているが、割と居心地の良いので今も続けている。

前職は、向き不向き以前に、荷が重すぎた。

まだ生を受けて19年ほどしかたっていないガキに、経験したこともないことが予測できると?

「知らないなら教えてやる」ではなく「なぜ知らない」のスタンスで来られても心が折れるだけだろう。

自分の経験不足、知識不足、予測不足なのは私自身の改善点だが付け加えて人格ときた。

「大人にならないといけないよ」と、大人は言った。


 大人になるっていうのはどういうことなんだろうか?

昔から、何かと突っかかられる立場にあった私は、感情の切り替えが上手くなった。

そうでもしないとずっと泣いて、楽しむこともできなかっただろう。

幸い友達や家族に恵まれたから一人にならなかったが、

それでもこんなひねくれた人格が形成されてしまった。

仕方がないと言えばそうだが、そうとも言ってられなくなってきているのが現状だ。

最近はミスがあったりすると怒られるのは当然だが、態度まで指摘されるようになってきた。

確かに、自分でもガキっぽいと思う節はある。

すぐに言い返してしまうところとか顕著だろう。

自覚はある故に気を付けてはいるが早々に治るものじゃない。

そういうもんなんじゃないだろうか。


 他社は私にどういう人間になってほしいんだろう。

自分は馬鹿だから、自分の欠点がすべてはわからない。

わかっているからこそ、もし粗相があれば構わず言ってもらいようにお願いしている。

それはそれで自身で受け止めて時間はかかるが直していけばいいと思う。

だが、最近…いやずっと、様子がおかしい。

私のためといいながら、どうも自分の都合のいい人間に仕立てようとしている気がする。

「その言葉は、本当に私の為ですか?」


 私の人生をなぜあなたは否定できるの?

私は本当に自分勝手な人間だ。

元来弟がいるため姉貴肌で、学生時代は喧嘩の仲裁や不登校の子を迎えに行っていたりしていた。

誰かのために、動いていたのがほとんどだ。

その子に無理ないことからゆっくり初めて、応援した。

環境や性格も鑑みて、行動していた。

それが社会人になって守る物がなくなって、弱くなったなと感じる。

学生の頃に感じ得なかった、”見返り”を求めるようになってしまった。

【こんだけ話聞いてやったんだから、私の話も聞いて】

【こんだけ労わってあげたんだから、私も労わって】

【…何も言わなくても、助けてよ】

醜い、本当に醜くくなってしまった。


 私は、どうすればいいのだろう。

この先、学ぶこともたくさんあるし成長を強いられるだろう。

上司のお小言ををうまくかわすやり方も、申し訳なさそうにするやり方も、やらなければいけないこととやらなくていいことも、

きっと身につくだろう。 否が応でも。

ただ、それでいいのだろうか?

そんなのでいいのだろうか。

そんな醜い大人になっていいのだろうか。

”私”を損なってまで、大人にならなければならないのだろうか。


 

 私は、私でいたいだけなんだ。

誰か、認めてはくれないだろうか。

「貴方は、貴方のままでいい」

「間違ってない」

「貴方のペースで進めばいいんだよ」

それだけで、いいんだけどな…。



 結局、自分で言ってしまうあたり作家なんだろう。

なんだか笑えてきた。

自分にこんなドロドロな負の感情があったなんて知ってはいたがここまで泥沼化していたとは。

新しい自分を発見した、これはお宝だ。

これを糧に何か産み出そうとしているあたり、死んでも表現者なんだなと再認識している。

まぁ、こんなもの到底よそ様にお見せできるものじゃないので、いい具合に洗濯して乾燥機にかけて作品にでもしようか。

独りよがりで腐った性根の人間を太陽みたいに優しい暖かさ持った主人公が少々の荒療治で叩き直す話だ。

これもまた、きれいなお話になりそうだ。

タイトルは…。


「Rerise-昇らない太陽はない-」  

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