たぶん、ずっとつづく。
草加奈呼
*
あの夢を見たのは、これで9回目だった。
いつも同じ夢。
真っ暗な部屋。
カーテンが風もないのに揺れ、ベッドの足元に誰かが立っている。
顔は見えない。でも、じっとこちらを見ているのがわかる。
「ねえ……」
いつも、そいつはそう話しかけてくる。
目が覚める。
汗びっしょりで、心臓がバクバクいってる。
時計を見ると、決まって午前3時33分。
「勘弁してくれよ……」
俺は呟き、冷蔵庫から麦茶を取り出した。
もう9回目ともなると、さすがに慣れてくる。
でも、毎晩起こされるのは本当に勘弁してほしい。
ネットで調べたら、「同じ夢を見るのは霊の仕業かもしれません」とか書かれていた。
まさか……と思いつつ、試しに塩をまいてみたり、お祓いグッズを買ってみたりしたが、何も変わらない。
こうなったら──
「直接聞くしかねえな」
10回目の夢に備えて、俺は気合を入れた。
そして、10回目の夜。
例の暗い部屋。
足元には、いつもの影。
「ねえ……」
その声に、俺は布団を蹴飛ばして飛び起きた。
「お前、誰だよ!? いい加減にしろ!!」
影がビクッと震える。
そして、消え入りそうな声で言った。
「……君の夢に、間違えて入っちゃって……」
「は?」
影は申し訳なさそうに頭を下げる。
「ご、ごめん……。本当は別の部屋の住人の夢に行く予定だったんだけど、道に迷って……」
俺は絶句した。
道に迷った? 夢の中で?
「実は私、"悪夢担当の新米幽霊"で……。このマンションの誰かの夢に出るのが仕事なんだけど、私……極度の方向音痴みたいで……」
「いやいやいや、なんだよそれ!? 方向音痴にも程があるだろ!」
「ぴぃ! ごめんなさい!」
幽霊(らしき影)は泣きそうな声を上げた。
「本当は305号室の山田さんの担当なんだけど、君の部屋と間違えちゃって……」
「あのさ……9回も……いや、今日で10回目か。そんなに間違えるってどういうこと?」
「ごめん……。本当は、11回目なんだ……」
俺は頭を抱えた。つまり何? 俺は山田さんの代わりにずっと悪夢を見てたってこと?
「ご、ごめん……。今度こそ山田さんのところへ行ってくるね……」
そう言うと、幽霊はペコペコ頭を下げながらふっと消えていった。
「って、おい! そっちは逆だ!」
たぶん、ずっとつづく。 草加奈呼 @nakonako07
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