たぶん、ずっとつづく。

草加奈呼

 あの夢を見たのは、これで9回目だった。


 いつも同じ夢。

 真っ暗な部屋。

 カーテンが風もないのに揺れ、ベッドの足元に誰かが立っている。


 顔は見えない。でも、じっとこちらを見ているのがわかる。


「ねえ……」


 いつも、そいつはそう話しかけてくる。


 目が覚める。

 汗びっしょりで、心臓がバクバクいってる。

 時計を見ると、決まって午前3時33分。


「勘弁してくれよ……」


 俺は呟き、冷蔵庫から麦茶を取り出した。

 もう9回目ともなると、さすがに慣れてくる。

 でも、毎晩起こされるのは本当に勘弁してほしい。


 ネットで調べたら、「同じ夢を見るのは霊の仕業かもしれません」とか書かれていた。

 まさか……と思いつつ、試しに塩をまいてみたり、お祓いグッズを買ってみたりしたが、何も変わらない。


 こうなったら──


「直接聞くしかねえな」


 10回目の夢に備えて、俺は気合を入れた。


 そして、10回目の夜。


 例の暗い部屋。

 足元には、いつもの影。


「ねえ……」


 その声に、俺は布団を蹴飛ばして飛び起きた。


「お前、誰だよ!? いい加減にしろ!!」


 影がビクッと震える。

 そして、消え入りそうな声で言った。


「……君の夢に、間違えて入っちゃって……」


「は?」


 影は申し訳なさそうに頭を下げる。


「ご、ごめん……。本当は別の部屋の住人の夢に行く予定だったんだけど、道に迷って……」


 俺は絶句した。

 道に迷った? 夢の中で?


「実は私、"悪夢担当の新米幽霊"で……。このマンションの誰かの夢に出るのが仕事なんだけど、私……極度の方向音痴みたいで……」


「いやいやいや、なんだよそれ!? 方向音痴にも程があるだろ!」


「ぴぃ! ごめんなさい!」


 幽霊(らしき影)は泣きそうな声を上げた。


「本当は305号室の山田さんの担当なんだけど、君の部屋と間違えちゃって……」


「あのさ……9回も……いや、今日で10回目か。そんなに間違えるってどういうこと?」


「ごめん……。本当は、11回目なんだ……」


 俺は頭を抱えた。つまり何? 俺は山田さんの代わりにずっと悪夢を見てたってこと?

 

「ご、ごめん……。今度こそ山田さんのところへ行ってくるね……」


 そう言うと、幽霊はペコペコ頭を下げながらふっと消えていった。


「って、おい! そっちは逆だ!」

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たぶん、ずっとつづく。 草加奈呼 @nakonako07

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