惚れたものの弱み
@ayaya05
第1話
推しとは何か
それは私の生きる意味であり、いつだって私に幸せをくれる存在である
「事務所からの大事なお知らせ」
これを見た時、私は嫌な予感しかしなかった。
今までこれが良いお知らせだったことがないからだ。
メンバーが脱退したときも、活動休止するときも、この「大事なお知らせ」とやらがやってきた。
だから、ある程度覚悟を持って見たはずだった。
それでも「今年の◯月◯日をもって解散いたします」という文章を見た時の私の表情は相当なものだっただろう。
私が彼らに出会ったのは中学2年生の時だった。
当時はまだデビューした直後で、メンバー全員が20代前半とまだまだ若く駆け出しのグループだった。
いろいろなことが重なって生きる意味を見失いかけていた私には、彼らの姿はキラキラと輝く光に見えた。
そして私は推しに出会った。
グループの中で一番人気というわけでもなく、顔も万人受けするイケメンではない。
でも、その笑顔は私には誰よりも輝いて見えた。
それから私の人生は大きく変わった。
新曲が出るたびにMVを回したり、CDを積んだりするのは大変だったけど、推しが喜んでくれるかなと思うと全く苦じゃなかった。
映画やドラマが決まると私もとても嬉しかったし、ライブに行くのは私の生きがいになった。
SNSで一緒に語る仲間もたくさんできた。
今までとは比べ物にならないぐらい毎日が充実していた。
そして、私は身の回りはもちろん人生さえも推しに捧げた。
高校生の時に手芸部だったのはぬいの服を作りたかったから。
東京に行くために親が認めてくれる大学を目指して勉強を頑張ったのも、推しに会いたいから。
医師を目指したのも、病院に推しが訪れたときに合法的に話せるかなって考えたから。
私の好きな漫画や好きな音楽、好きなスポーツ、好きな服のブランドも、全部推しが好きだって言ってたから。
推しが好きなものは私も好きになりたかった。
あれから随分経って色々なことが起こった。
何かあるたびに喜んだり、悲しんだり、怒ったり。
それでも私は推しを追い続けた。
推しに喜んでもらえるように、推しに悲しい顔をさせないように、いつだって私は推しの選択を受け入れてきた。
推しは昔とは比べ物にならないぐらい有名になった。
それは嬉しいようで寂しかった。
人気になることを望んでいたはずなのに、実際に人気になると急に遠くなったように感じて、昔から一緒に応援していた人は一人また一人といなくなった。
メンバーが減って、全員が30代後半になって、最近はあと何年これが続くのだろうと考えることが多くなった。
今までの他のグループを見ると、あと数年だろうとは思っていたけど、それでも10年以上続いていたこの生活が変わるなんて想像もできなかった。
本当に終わってしまうのだろうか。
毎回録画していた番組も、楽しみにしていた動画も、全部何もかもなくなってしまうのだろうか。
推し自身は事務所に残って芸能活動を続けるとは言っているけど、私はアイドルじゃない推しを今までと同じように好きでいることができるだろうか。
推しがいなくなった私には一体何が残るのだろうか。
最後に私が推しにできることはなんだろう。
あとたった数ヶ月だけど、その間に私には何ができるだろうか。
とりあえず私が一番伝えたいことは、やっぱり「ありがとう」しかない。
推しがいてくれなかったら、きっと私は今頃生きていなかった。
少なくともこんなに楽しい人生は歩めなかった。
きっと、もっとつまらない人生だったと思う。
推しがいたから辛いことも乗り越えられた。
私が辛い時にタイミングを見測ったようにいつも幸せをくれたよね。
きっと辛いこともたくさんあったと思うのに、いつも笑顔でいるその姿にいつも励まされてたよ。
裏でたくさん努力をしてるのは気づいてたし、ファンのことたくさん考えてくれてることも知ってたよ。
だけど、こんなこと言ってもきっと推しには届いていないんだろうな。
推しからすると私なんて他人でしかないし、認識もされてないはず。
それでもいいよ。
きっとこれは惚れたものの弱みってやつだから。
たとえ推しには届かなくても、最後までありったけの感謝を伝えよう。
それが私にできる精一杯のことだから。
あなたに救われた人がいるんだってことを少しでも知ってほしい。
あなたが今まで歩んできた道は間違えじゃないって伝えたい。
そして、これからあなたが歩む道が幸せなものであることを願いたい。
好きだよ。
きっと今までもこれからも。
あなたに出会えて本当に良かった。
惚れたものの弱み @ayaya05
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
二次創作という「やり方」で推す意味/四谷軒
★120 エッセイ・ノンフィクション 完結済 1話
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます