第3話 シチューの香りがしたってだけで。

「…で、どうやって霊的なものの対策をするかなんだけど、藁人形?は、逆にこっちから呪いをかけそうだし、十字架?は霊というより悪魔祓いのエクソシストっぽいし…いやでも十字架はファンタジーならアンデッド対策とかにもなる?でも霊に効く?」


 色々あーだこーだ考えるうちに、ひとつ重要な事に気がつく。それは所持品問題について。


「こうして考えてても何も持ってないから、とりあえず何か無いか探索してみないとどうにも…」


 ふと、その時に何か美味しそうな香りが遠くから漂ってきた。

 そういえば、僕は動物系の魔物だけど、種族特性ってやつに嗅覚に関するものが無かったような…そんな考えが脳裏をよぎるが、すぐにどっかいった。


「…クンクン、この香りってシチューじゃない!?えっ誰かシチュー作ってんの!?!??えっ行くしかないじゃん!人間でも魔物でも何でもいい、とりあえず幽霊より億万倍マシですしお寿司?」


 そうとなったらやる事はひとつ、シチューの香りがする方へ全力ダッシュだ!!

 そうして、僕は森の中を進む。決してシチューが好物だとか、ちょうどお腹が減ってたとか、そういう訳ではない、決して。



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悪霊巣喰う疑心暗鬼の森 を 駆けてゆく ケモノ

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 すごい。疲れない。全力疾走しても全然スタミナが切れる感じがしない。動物の身体ってすごい。


「だんだんシチューが近づいてくる感じがするけど、火の灯りみたいなものが見えてくる感じはしないなぁ…やっぱり魔物だし嗅覚が鋭いのかな?」


 もしかしてこの森に生えてるキノコとか使ったシチューかな〜とか考えているうちに、視界の先に何かが見えてくる。


「あれは…家!?」


 すぐさまダッシュ中の脚にブレーキをかけて、視界に入った家を遠くから注視する事にした。

 しかし、人間の時より目は良くなったけど、それでも距離が遠くてよく見えない…それにこの森、薄暗くて霧が少しかかっている。

 そう言えば遠視補正って項目もあったけど、アレの熟練度を上げたら見えるのかな?とも。


「ネクストさん、あそこにある家って誰が居ると思う?友好的な存在か、それとも危険な存在か。」


『在宅者の情報は分かりかねます。

 マスターが警戒するのであれば、

 不用意に接触を試みないのが賢明な判断です。

 リスクを顧みないのであれば、

 解錠に関するスキルを使用する事で不法侵入が可能だと思います。』


「いや不法侵入って…んでネクストさんにも分からないのか…あーいや、別にネクストさんは異世界ナビじゃなくてサポートAIってだけだから、分かる事にも限界はあるんだろうけど…それにしてもすごい誰でも分かるような事言われた気がする。」


 まあ、こういう万能じゃないテンプレ発言する所もAIらしいと言えるか。


「つまり、今は僕自身で何とかしなきゃダメか…とりあえず家をよく観察してみるしかない。とりあえず灯りは見えない、家の作りは多分レンガ?扉のつくりは多分アレ木製かなぁ…うんんんんむむむ、これだけだと人が住んでるかもしれないし、別の何かかもしれないし、よく分からないなぁ…」


 ずっと眉間にシワを寄せてシチューの家を注視していたため、目頭が痛くなってきた。

 それはそれとして、どうせ今の自分は魔物なのだし、不法侵入もやむなし、何よりシチューが待っている。いやシチューに対して特に特別な考えがある訳では無いが、飲食物はとても大切。とても重要だと思います。思いまーーーす!!


「よし、ゆっくり近づいて…うん、鍵はやっぱり付いてるか。鍵が付いてるならある程度文化的な知識を持つ存在がここの家主という事になるけど…」


 試しに鍵を開けようと頑張ってみる。…と言っても鍵開けなんてどうすれば良いのか。爪の先で鍵穴をガチャガチャしてみてもダメだし…というか、あんまり時間かけてたら家主に見つかるか?

 いやこの際思い切って鍵を破壊する?分からないものはとりあえず試す。

 …そう!ネクストさんにだって分からない事めっちゃ聞きまくってるし!分からないなら試す!

 あーー、不法侵入については目を瞑ります。


「魔物のパワーなら思いっきり力いれたら破壊できないかなぁ?よし、せーのっ!」


 バキッ!!!!思いっきりチョップしたら、あっさりと壊れた。割と鍵が古かったのかもしれない。

 すぐに扉を開けて家の中に不法侵入してゆく。


「シチューが待ってる、僕のシチューがね…」


 とりあえずシチューが無事か確認したい。そろそろ食い意地が汚いと思われそう。ネクストさんに見られてないといいな。

 そして、一番シチューの香りが強い場所…そこに足を踏み入れる。



 悪霊巣喰う疑心暗鬼の森、誰かの家の中。



「…そこに居るのは誰ですか?」



 そう、語りかけてきたのは。



「すみません…私、鍵を締め忘れてしまっていたのでしょうか?

 私、目も見えず耳も聞こえないものでして…」



 まるで、ビロードのような美しい毛並みを持つ…





 漆黒の魔物だった。





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・・・プロンプト更新


【好きなもの】昼寝、夜更かし

       +シチュー

【嫌いなもの】勉強、労働

       +心霊現象


【所持スキル熟練度】

 解錠技術:(1/100)% +1%

 幸運補正:(0/100)%

 浄化魔法:(1/100)%

 遠視補正:(1/100)% +1%

 爆破魔法:(0/100)%

 霊力感知:(1/100)%

 工作技術:(0/100)%


【種族特性】

 自動体温調節、身軽、身体強靭、自然治癒、

 環境適応、魔物臭、成長速度低下、機敏、

 跳躍強化、走力強化、体力増加、魔物言語

 魂魄触媒

 +嗅覚強化


【前世特性】

 文化的知識、人間言語、霊障斥力

 +退魔知識、+飢餓回避


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