9回目の夢と9番目の竜

一陽吉

さらに竜

 あの夢を見たのは、これで9回目だった。


 そのことに軽い興奮を感じながら15歳の少女であるジュリーペルは廊下を駆けていった。


 朝、目覚めてすぐの行動でネグリジェ姿だが、そのことを気にしている様子はなかった。


 廊下のつきあたりにあるエレベーターに乗り込み一階に到着すると、ジュリーペルは再び廊下を駆けだした。


 建物自体が野球場一つ分の大きさをしており、生活する区画から目的の区画へ移動するにも、けっこうな労力を必要とした。


「今度はどんなのかな……」


 その場所へ近づくごとに期待も高まっていくジュリーペル。


 廊下の先にある扉の前で止まると、深呼吸をし、右横にある小さなモニターに右手をかざした。


 生体と固有魔力を認証したモニター表示と小音が鳴り、研究施設を思わせる合金製の扉が右から左へと自動的に開いた。


 中に入るとそこは体育館のようにガランとして何もなく、扉より強度の増した合金製の床と壁、天井によって直方体の空間が広がっていた。


「まえと同じならあの辺から……」


 中央に向かって歩きながら呟くと、ジュリーペルは顔を上げて見た。


 すると、キラキラと光輝く卵の形をしたものが現れ、ゆっくりと下へ落ちていった。


 スーツケースほどの大きさをしたその卵は床に接触すると、光の粒となって弾け、中のものが姿を見せた。


 それは三歳ほどの男児だった。


 オレンジ色がかった金髪を短髪にした男児が、一糸まとわぬ姿でちょこんと立っていた。


 だが、その瞳はジュリーペルと同じく緑ではあるものの、瞳孔は縦に細く、獣のようであった。


『あなたが、僕の主ですか?』


 初めて自分以外の生き物を見た表情をさせながら、男児は目線にあわせてしゃがみ込んだ人間に聞いた。


「ええ、そうよ。私はジュリーペル。よろしくね」


 そう答えてにっこり微笑むと、男児は安心した様子で口元に笑みを浮かべた。


『へえ、そいつが新しい仲間か』


 不意に声がしたかと思うと、そこにはファンタジーゲームに登場するような剣士の格好をした二十代半ばくらいの女性が立っていた。


『魔力は高いようね』


『かわいいです~』


『男か! いいね!』


『善き哉、善き哉』


『男の子とは意外でござる』


『どんな遊びが好きかしらね』


『幼いようですが逆を言えば伸びしろがあるということ。私がきっちりと教育いたしましょう』


 剣士の登場を皮切りに、魔導士、僧侶、武闘家、槍士、忍者、黒兎、教師といった装いの女性たちが次々と現れた。


 現れた八人の女性は全員二十代の範囲で、それぞれ体型や身長も異なるが、共通していることは男児と同じ、縦に細い瞳孔であり、身体が半透明であった。


「みんな仲間だよ」


 右手を広げて嬉しそうに言うジュリーペル。


 幻竜使いとして、人類と魔族との戦いに新たな戦力が増えたというよりも、純粋に、新たな仲間の登場に喜んだ。

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9回目の夢と9番目の竜 一陽吉 @ninomae_youkich

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