第3話

彼らが自分に対して苛立ちを感じていることは、理解していた。しかし、私は自分の楽しみを優先することにした。なんでこんなに彼らがイラついているのか分からなかった。最初は、いちいち気にして「何か変なことしちゃった?」と聞いていたが、何の反応も返事もしてくれいので、今では私も無視することにしている。


「じゃあ、このオークは持ち帰って、ギルドに売ろうか。この装備品も高くつきそうだし、このオークに殺された冒険者たちの弔いにはならないかもしれないけど」


パーティーメンバーたちは私の言葉に反応しなかった。彼らはまだふてくされたままで、誰も私の目を見ようとしなかった。私はその様子に少し苛立ちを感じたが、それを表に出さないようにした。

本来ならば、私より体格のいいガレスにオークを持ち運んでもらいたかったが、ガレスがオークを持ってくれる様子はないので、仕方なく私は自分に補助魔法をかけた。


「聖なる力よ、私に力を与えよ!」


このオークを売ったお金で、ディナーは豪華になりそうだ。気持ちを切り替えて、軽くなったオークを持ち上げる。それでも引きずってしまうほどオークは巨体だったが、酒のためである。パーティーメンバーたちは、そんな私を見て、ますます不機嫌になったが、私はその様子に気づかないふりをして、自分の楽しみを優先することにした。


オークの死体を金に換えて、温かくなった懐に、ホクホクした気持ちで、酒場の扉を開けると、多くの人々のざわめきが聞こえてきた。店内には煙草の煙が立ち込め、雑音が絶え間なく響いていた。テーブルには、酔っ払った客が片手で持ったグラスや酒瓶が転がっており、地面にはこぼれた酒や食べ物の残りが散乱していた。


店内には、私たちと同じく、たくさんの冒険者が集まっていた。肩を寄せ合い、並んでいるテーブルには、酒の肴として出される肉料理がずらりと並んでいる。この地方は、オークやゴブリンがたくさん生息していた。その肉を使っているのだろう。店内は、鬼族特有の匂いと何日も風呂に入っていない汗や体臭がムワリと立ち込めていて、臭かった。お金持ちの顧客を狙った上品な店ではなく、庶民が手軽に入れる店は、いつもこんな匂いがする。


異世界に来た当初は、この匂いに辟易していて、こんな店は二度と来たくないと思っていたが、この世界で出来立てで、おいしい料理を食べるには、酒場に行くしかなかった。

冒険者向けの宿は、日本のホテルのように朝食や夕食付の宿泊プランなど、提示していない。

ただ、寝るだけの場所なのだ。

だから、冒険者はみな酒場に行く。

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