幼馴染が起こしてくれなかったので

倉木さとし

幼馴染が起こしてくれなかったので

 あの夢を見たのは、これで9回目だった。

 いつも見る白黒の夢に、ひとつだけ色がついた。

 刺された妹のあか




 幼馴染の彗子けいこが、頼んでもないのに毎日起こしに来る。なので、流星りゅうせいは色々と話すしかなかった。


医者せんせいの話だと、夢に色がついたら現実にも色が戻ってくるらしいから、ゆっくり眠らせてくれ。あとさ――」


 彗子に起こされなくて念願が叶ったのに、夢ならさめてくれと思いながら目覚めた。

 夢の中で耳にした子供の泣き声は、現実でも耳鳴りのように響いている。そして網膜に焼き付いた色。


「あっがい」


 花粉症の薬飲み忘れて眠ったようで、両方の鼻が塞がっていた。口呼吸になっていて、喉がガサガサだ。

 枕元の缶ビールがベッドシーツにシミをつくっている。持ち上げた缶の重さから、薬一錠ぐらいなら飲めると判断した。


 ブラウン管テレビの上に置いた様々な薬を漁っていると、彗子の「ボクと同じ病院に行きな」という言葉がよみがえった。

 彗子は二十歳をこえてからボクっ娘になった。流星に捨てられたのが原因らしい。生活保護受給者なのも、彗子にとっては流星のせいなのだ。

 

 テレビと繋がったゲーム機は、彗子が持ってきたものだ。いまでは色盲と相性の悪いパズルゲームをプレイして、顔の絵柄をみわけて連鎖が出来る。

 デジタル放送が受信できないテレビで、白黒のゲームを遊ぶという発想は、流星にはないものだ。

 同時に、幼馴染の不幸話を投げ銭している配信者に語る発想もない。彗子はコメントを信じ、流星の不幸話を嘘と決めつけた。実に彗子らしい。

 流星は彗子に金を使うのが嫌で、地元から逃げたのだ。遠い地のブラック企業で働いて納めた税金が、巡り巡って奴のもとに分配されていたのにも腹が立つ。


 彗子と真逆の女性を妻に選んだのは正解だった。子供にも恵まれた。だから、二人に会える夢は幸せだ。

 交通事故で突然死した両親が、子どもと触れ合う夢。流星よりも遊ぶのが上手だ。妹は妻の明るい性格のおかげで、仏頂面が崩壊して笑みをこぼす。

 

 現実では妹に紹介したせいで流星は不幸になった。

 色を失う前に最後に見たのは、妹の職場の人間にレイプされる妻だ。

 目を潰されたことで、泣き叫ぶ最愛の子供の声が印象に残っている。

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幼馴染が起こしてくれなかったので 倉木さとし @miyamu_ra-men_2

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