もうあの夢は見たくない

多田莉都

第1話

 あの夢を見たのは、これで9回目だった。


 もう9回もあの夢を見たのか。また僕は戦いに向かうのか。

 これで最後になるだろうか――。そんなことを考えながら歩みを進めていると、レンが「着いたぞ」と言った。


 世界を闇に落とさんとする魔王城の中枢部、僕たちは魔王の間へとたどり着いた。

 黒いローブに身を包む巨体を前に、戦う前から僕の体はあちこちが痛むような緊張感があった。


「よくぞここまで来たな勇者どもよ。褒めてつかわそう」


 重く、低い声が僕たちへと語りかける。

 褒めの言葉などいらない。大魔王の声などに聞き流すだけだ。


 僕は祈る。これが最後の戦いでありますように、と。


 僕は剣を構え直す。剣士・レン、魔法使い・サキ、ヒーラー・ロイ、召喚士・ユーリ、仲間たちもそれぞれの戦闘態勢に入った。僕たちは最大限の能力を発揮し、この戦いに挑んだ。

 けれど、僕の胸の中には、逆の感情もまた存在していた。

 ――僕たちのレベルでは魔王には勝てない。

 それでも、ほんの僅かな可能性に賭けて、僕たちは戦った。

 ロイの守備魔法で防御力が強化された僕とレンの剣が魔王のローブを切り裂き、サキとユーリの魔法がその身をを焦がした。大魔王に確かなダメージも与えることはできた。

 しかし――、

「バカめ、私がその程度の攻撃ごときでやられると思ったのか!」

 魔王の目が紫色に妖しく輝き、とうとう真の姿を現した。

 そして古代魔法がその禍々しい両腕から放たれたとき、僕たちの命はそこで尽きた。

 ああ、またあの夢を見るのか。これで10回目か。


 どこからともなく声が聞こえる……。


『おお勇者よ、死んでしまうとは何事です! そなたに再び命を与えましょう。さぁもう一度、戦うのです』


 僕は祈る。闇の力を封じるアイテム『暁の宝玉』の取り忘れに気づいてくれと。

 僕は祈る。せめて、もう少しレベルをあげてくれと。

 僕は祈る。もうこんな夢は見ないようにと。


「あー、なんで勝てないんだよ! また全滅かよ!」


 天から僕を操る創造主プレイヤーの少年の声が聞こえた。僕と同じ名前を持つ彼が叫ぶ。


「もう一回! 次こそ倒す!」


 また勇者ぼくは復活した。

 少年はこのゲームのクリア方法に気づかない。まだ当分、あの夢を僕は見ることになりそうだ。

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もうあの夢は見たくない 多田莉都 @rito_tada

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