後編 私を好きになって!

「すっご……。」

 僕と姉は感嘆の声を洩らした。たまごサンド、チャーハン、ピザトースト、タルタルソースと野菜ステック。一見たくあんと組み合わせそうもないこれら全てに、たくあんが入っている。

「はい!キンパも出来上がりですね!じゃあ次は―」

「た、たくあんちゃんそこまで!こんなにいっぱい食べきれないよ。あとお腹空いた。」

「はっ!失礼しました。」たくあんちゃんが頭?を下げる。「では、早速篤人さん!食べて下さい!」

「……じゃあ、たまごサンドを。」

 たくあんが入っていると分かってはいるが、空腹の方が勝った。一口噛むと、たまごに混じって、たくあんのカリリという食感。だが、僕の苦手な漬物らしい味はマヨネーズにカバーされて感じない。

「……おいしい。」

「ホントですか!」

 ピザトーストもチャーハンも、たくあんが小さく切られていたので、食感のアクセントは楽しい一方、苦手な味が他の食材によってマイルドになっていたので問題なく食べれた。思い切って、ちょっと大きめのたくあんが入ったキンパも挑戦。やはり美味しく食べられた。

「篤人!全部食べれたじゃん!」姉が興奮した様子で言った。「これならたくあんちゃんも食べれるんじゃない?」

「え?」

「え!?食べて頂けるんですか!」

「え、あの待っ―うわあ!?」

 たくあんちゃんは躊躇なく自分の端を切り、僕に渡した。

「さ!どうぞ!」

「行け篤人!」

 ここまで言われたら食べるしかない。でも、そこまで嫌じゃなかった。たくあんちゃんの作った料理はどれも美味しかったし、僕も内心、克服したいと思っていた。せっかくお祖母ちゃんが手間暇かけて作ってくれるのに、僕だけ食べられない事に罪悪感を感じていたからだ。

「ん!」

 たくあんを一口で放り込む。噛みしめる僕を、姉とたくあんちゃんが見つめる。

「……どうですか篤人さん?」

「……い。」

「え?」

「まずい……。」

「え!?」

「なんか……手袋食べてるみたい……。」

「手袋?!」

 口の中がもさもさして仕方がない。おまけに、舌や歯に糸くずが絡まるような不快な感触がある。猫に似せようとモフモフになったせいで、たくあんの食感の良さが完全に無くなってしまったようだ。

「そんな~!!!せっかく食べて頂けたのに~!!!」

 たくあんちゃんが力なくテーブルからこぼれるのを、僕は慌てて掴んだ。

「で、でも。料理は美味しかったから!あの、食感が戻ったら、食べれるよ。……多分。」

「そうだよたくあんちゃん。それに、さっき他のレシピも言いかけてたでしょ。タッパーにまだ沢山あるし、教えてよ。それを全部食べ切れる頃には、篤人もたくあん好きになるわよ、ね!?」

 姉の圧に、僕はガクガクと頷いた。好きになるかはグレーだけど、克服はしたい。

「……うう、ありがとうございます!」

 たくあんがシャキン、と背筋?を伸ばした。

 そこからは食卓に毎日何かしらのたくあん料理が並んだ。タッパーの中身が減って来ると、たくあんちゃんは自分を切って料理に使い始めた。そして長さが半分になった頃、たくあんちゃんは話す事も動くこともしなくなってしまった。

「……きっと、もう教える事は何も無いってことだよ。」

 姉がちょっと寂しそうに笑って言った。

「さ、食べよ。今日はたくあん入りのポテサラね。」

「うん。」

 食卓には、買ってきたたくあんも並んだ。僕はそれを一切れ取って、ご飯に載せて頬張る。

「……ばあちゃんのたくあんの方が美味しいな。」 

「また送ってもらお。てか、春休みになったらうちらが遊びに行けばいいよ。作り方教われるし!」

 成程、と僕と姉は笑いあった。

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もふもふたくあん 根古谷四郎人 @neko4610

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