10回目の告白。
工藤 流優空
第1話
あの夢を見たのは、これで9回目だった。
枕元に置いている「夢日記」と名付けたノートを確認したから間違いない。
夢の内容って、すぐ忘れてしまうから書きとめておこうと思って始めた。
だって、夢で見た面白い映像すべて。それは絶対、役に立つと思ったから。
どんなことの役に立つのかって?
決まってるじゃない、自分が書く小説のネタに使うの!
夢で見たものは、起きてる私では絶対思いつかない内容のものばっかり!
だから一つのネタだって失いたくないから、書き始めたんだ。
見直してみたら分かるけど、
「あ、そういえばこんな夢も見たな」
そう思う夢の内容もいくつもある。
やっぱり書き留めておかないと、忘れちゃってるんだよね。
でも、この夢の内容だけはもう、忘れない自信がある。
なんていったってもう、9回も見てるんだもん!
内容は、大好きな中田くんに、告白する夢。
中田くんは、私が通う中学校のクラスメート。
誰にでも優しくて、スポーツも勉強もできるイケメン。
まさに、スクールカースト上位って感じ。
私はといえば、地味で、友達もいない、普通の女の子。
いや、スクールカースト的に言えば、地面につきそうなレベル。
一番下位層の人間だと自負している。
そんな私が、スクールカースト上位の中田くんに告白するなんて。
もちろん、おこがましいにもほどがあるって思ってはいる。
でも告白するのは自由だよね? 断られる覚悟はあるし。
まぁまだ、告白する勇気なんて、ないんだけどね。
でも夢の中でだけならもう、9回も告白してるよ。
そして9回とも全部、こっぴどい断られ方をしてるんだよね。
「え、誰きみ。……同じクラスになったこと、あったっけ?」
「え、記憶にないんだけど、別の学校?」
「えっと……、名前、教えてもらってもいいかな? 初対面だよね?」
しかも大体、私のことを知らなかったり、記憶にそもそも残ってすらいない、という状態ばっかりなんだよね。毎日現実世界では、あいさつはしてるのに。
……実は、あいさつしてるだけで顔と名前は一致してないとか?
夢の中の中田くんを見ていると、そう思ってしまったりする。
夢の中で一生懸命、私は自分の名前と自己紹介をする。
けれども次に同じ夢を見た時にはやっぱり、夢の中の中田くんは私のことを覚えていない。
「でも次は記念すべき10回目、もしかしたら結末変わるかも」
プラス思考にとらえよう、そう思って私は、二度寝を始めた。
♢♢
夢の中で、記念すべき10回目は訪れた。
屋上に、私と中田くんは立っている。
「中田くん、あなたのことが好きです」
どうせいつものように、私のことなんて知らないというセリフが来る。
そう思ったけれど、なぜか今回は展開が変わっていた。
「……ほんと、キミは面白い人だね」
「え」
中田くんは今まで見たことないくらい、楽しそうに笑って言った。
「キミは9回も僕に振られたのに、またあの夢を見たいと思ってくれた。告白して振られる夢なのに、見たいって思う人、そんなにいないと思うよ」
「そうかな。私、中田くんが夢に出てきてくれたら、それだけでうれしいけど」
まぁ、振られるのはもちろん、ショックなんだけどね。
「え、でも、アレ? 中田くん、今までの夢、覚えてるの?」
私の言葉には答えず、中田くんは一言。
「……いいよ。付き合ってみよう」
なぜ中田くんが私の見た9回の夢のことを知っているのか。
そしてなぜ今回は、夢の結末が変わって、告白成功したのか。
その話はまた、別のいつかに。
10回目の告白。 工藤 流優空 @ruku_sousaku
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