夢からの手紙

八咫空 朱穏

夢からの手紙

 あの夢を見たのは、これで9回目だった。


 ざっくりと言ってしまえば、花束を渡される夢。


 私が覚えていないだけなのかもしれなけれど、それ以外に夢の共通点はない。夢の始まりは様々なのに、終着点は9回とも同じだった。毎回、誰かから花束を受け取ったところで目が覚めるのだ。この不思議な夢を最初に見たのは、一体いつからだっただろう?


 さっきはピンクの金魚草みたいなのを渡された。花束というか、その辺で摘んできましたみたいな感じのやつだったけれど。その前は確か――ガーベラだったかな、こっちは正真正銘の花束だったと思う。


 お手製のガーデンチェアから身を起こす。椅子の乗ってるウッドデッキも、ボロボロになってきてるからそろそろ補修をしなければ。そしてこっちも――何とかしないとな。


 雑草に覆われてほとんど草叢くらむらと化しているその場所に目を移す。かつての庭は、勿忘草ワスレナグサの青い花が見え隠れしている程度の面影しか残っていない。


 しかしその一点、まるで何か言いたげなその花――雑草と春風に揺れる小さな花に不思議と魅入ってしまう。


 先立った妻は花が好きだったなぁ。10年前に亡くなるまでは、荒れ果てる前の姿の庭を手入れしていたものだ。私は花のあふれる庭を眺めながら、ここかで本を読むのが好きだった。今こうして春の陽気を浴びて昼寝をしていたのも、その生活の名残だったりする。


 そう、昔は花で溢れる庭だった。春にはレンゲが、夏には薔薇バラが、秋には彼岸花が咲いた庭だった。そういえば、夢で渡された花は全部見たことがある。全部――この場所から。


 渡されてた花は――ニゲラ、ヒメギリソウ、青い薔薇。ネリネ、マーガレット、彼岸花。レンゲ、ガーベラ、ヒメキンギョソウ。そして勿忘草。


 この並びの意味は……! 夢で渡された順番に言葉を並べたら、手紙がつむがれた。


『もしも、私のください。

このしています。

も、全部ありました。

――だと思いますが、どうかいてください』


 にじんだ視界の先で、微笑んでいる妻が見えた。そんな気がした。

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夢からの手紙 八咫空 朱穏 @Sunon_Yatazora

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