第3話 王子様と昼ご飯
そんなこんなで、ようやく昼飯だ。
3時限目の休み時間にもハプニングはあったものの、とにかくメシの時間だ。
…ハプニングというのは、休み時間にヤツが机の下にボールペンを落としたのだ。
愛用のやたら高級そうなボールペンを。
「すまない、拾ってくれないか」
自分で拾えとも思ったが、まぁ、いいだろう。
「…」
親切心もあったが、拾うためにと敢えて屈む。その真っ白な太ももを舐め回すように見てやろうと思ったのだ。
ははは、羞恥心に悶えるといい!!
「…っ!」
あろうことか、コイツはぱっくりと足を開きやがった。
あまつさえスカートまできっちり捲り、オレにしっかり見えるようにだ。
当然、股間のデルタゾーンは丸見えだ。早朝同様、縞々であり、食い込みがあり、さらにいい匂いもする。後ろめたい湿度があり、ほかほかだ。あぁ、きっとあの中は温かいんだろうなぁ。
「ほらよ」
何事もなかったように立ち上がり、その高級ボールペンを手渡した。
「ありがとう。どうだったかな?」
「…なんのことだよ」
「ふふ、なんでもないさ」
ということがあったが、些細なことだ。
瞼を閉じれば鮮明に思い出せるほど、きっちりと脳内記憶領域に刻まれてしまったが、些細なことだ。
とにかく昼飯にしよう。
今日は陽気がいいので中庭のベンチに来てみた。自前の弁当を広げる。
メニューはおにぎりとゆで卵をそれぞれ3個ずつ、水筒には麦茶。
ちなみにおにぎりは左からおかか、鮭、ツナマヨだ。
「ふむ、たまには外での食事も良いものだね」
自分の弁当と缶コーヒーを二本持って、オレの隣には王子様が付いてきていた。
ニコニコと機嫌が良さそうに自分も膝の上に弁当を広げている。
なぜかコイツは特別な用事でもない限り、必ずオレと一緒にメシを食う。クラスの女子からは引く手数多なのだが、なんだかんだ理由をつけてオレについて来るのだ。
一度、たまには女子と一緒に食ってやったらどうだ、と言ったことがあるのだが、
「ボクとごはんを食べるのはイヤなのかい?」
と、やたら悲しげな顔で懇願されてからは言うのをやめた。
「しかしキミの食事は彩がないね。PFCバランスは悪くないが。あと野菜もない。
…今日はお母様が不在なのかい?」
「ほっとけ。
親父ともども忙しいみたいだ。
だから今日の弁当は自作だ」
缶コーヒー代の百円玉を渡しながら答える。
おにぎりもゆで卵も前日に用意できるからな。昼飯代は貰っているが、これは小遣いに回すことが決定している。
「ほほう、ということは今夜は一人かな?」
「まぁ、そうなるな」
いただきますと手を合わせて食事を始めたオレの弁当の中身を、王子様は覗いてきた。
「自炊していることは評価しようじゃないか。とはいえお弁当の中身が真っ白だね」
おにぎりに海苔を巻いてないからな。
「ふむ、じゃあ明日からの弁当は煮卵にしてみるか…」
「そういう事を言っているのではないんだが」
やれやれと言った様子で、タッパーを差し出してきた。
「ほら、これをあげよう。こんなこともあろうかと用意したキミの分だ」
フタを開けてみると、ブロッコリーとプチトマトが入っていた。
「お、悪いな。遠慮なくもらっておく」
「そうするといい。キミのために用意したのだからね」
王子様は満足そうに頷く。気が利くヤツだ。
「しかし、オマエの弁当は相変わらず豪華だな。でかいし」
漆塗りの弁当箱を常用してるヤツはなかなかいないだろうな。
仕草の端々で育ちの良さが垣間見えるが、この王子様はちょっとありえないくらい良いとこのお嬢様だ。傍流ではあるが某大手企業グループの財閥一族らしい。
家系図が十数代前まで遡れるとか、なかなかお目にかかれまい。
コイツの両親も忙しい人達で、最近あまり会ったことがない。オレ達が小さな頃は遊んでもらった記憶もあるが、なんというか変わった人達だった。
ちなみにウチの両親はその某大手企業グループの末端の技術者だ。グループ会社に勤めているオレの両親と、傍流とはいえグループ会社の一族ということで共通点があったせいか、家が隣同士というだけではないオレ達が生まれる前からの親密な交流があったらしい。
「女子らしくないと言いたいのかい? まぁ、それは認めるところだが栄養バランスもカロリーも計算されているから問題ないよ」
そう言いながら、ミニハンバーグと卵焼きを渡してきた。
そして、ゆで卵を持っていく。
なんでわざわざ食べかけを持っていくのか。
「トレードだ。これで少し色がついたね」
「レートがあってないと思うが、もう一個ゆで卵いる?」
「いらない」
まあいい。
卵焼きを箸でつまむ。黄色に若干の焼色がついて、実に美味そうだ。
アイツがじっとこちらを見ている。凝視だ。こちらの動き全てを記憶に刻もうとでもいうのか。
卵焼きを口に入れる。当然冷めているが、噛みしめると半熟な部分が舌の上に溶け出した。
甘くて、うまい。
アイツはまだオレの食べる様子から目を離そうとしない。
そこまで凝視する要素あるか?
ただ食ってるだけだぞ。
まあいいか。
食べにくいが、美味いものの誘惑には勝てない。
次はミニハンバーグだ。
こちらも素晴らしい。冷凍食品かと思ったが明らかに手作りだ。挽肉の食感が明らかに違う。うずらの卵が乗っているのもデミグラスソースと相性抜群だ。
「うまい」
「もう少し具体的な感想を」
「卵焼きの甘さがオレの好みだ。甘さが強いのがよい。あとなんか不思議な味がする。うまく表現できんが、不思議な味としか言いようがない。
あ、不味いって意味ではないぞ。
美味いし、もっと食いたい」
ホント、何の味だろう?
「ハンバーグは冷めていることが前提の味付けで、甘じょっぱくて旨い。
肉々しいところがオレの好みだ。
あとこっちも不思議な味だ」
眼の前の王子様の口角が上がる。
そして、なぜか身震いして、とろりと笑った。
「それは、なによりだ」
「作ったのはオマエのお母さんか? 最近あんまり見ないし忙しい人だから家政婦さん? 作ったかたに礼を言っといてくれ」
「では、今言ってくれ」
「え、オマエが作ったの、これ?」
「その通りだ」
今度はにんまり笑うと、自分も卵焼きを口に運んだ。
「うん、我ながら狙い通りの味付けだ」
次々とおかずを平らげていく。
「キミが自炊しているのだからね。
ボクもこの程度はやらねばと思ったんだよ」
「くっ、なんか悔しいが、ごちそうさん」
「はい、おそまつさま」
自慢げに胸を張る。勉強、運動だけでなく女子力も高いというアピールなんだろうが、その巨大な胸だけでも十分女子力高いから。
そんなふうにおかずの交換するのも、いつものことだ。
オレと王子様は雑談しながら食事を続ける。
「そういえば、今年の誕生日になにか欲しいものあるか?」
「唐突だね。
まぁ、後二ヶ月切ってるから準備するならちょうどいい時期ではあるか。
キミこそ欲しいものはあるのかい?」
なんと、オレ達の誕生日は同じなのだ。
しかも生まれた病院も同じ。コイツの母親がお産する病院ってことは結構なセレブ病院だったんだろうが、オレの家は中流家庭だというのに親父ががんばったんだろうな。
コイツの方が数時間早く生まれたらしいが、日付は一緒だ。
いつの頃からか毎年プレゼント交換するようになっていた。
「去年は受験だったし、簡単に済ませたんだよな」
「そうだね。お互い示し合わせたように同じ店のケーキだったことには、なんとも言えず微笑ましかったけどね」
「あー、ちょっと高級そうでなおかつ小遣いの範囲で手を出せてお手軽って条件だとな」
「ボクとしては手が込んだものでもよかったのだが」
「オマエは余裕の受験だったんだろうが、オレは四苦八苦だったよ!
マジで余裕なかった…」
「そうかい?
ボクの見立てでは落ちる要素の方が少なかったと思うけど…」
「オマエと一緒に受験勉強してなかったらヤバかったと思う」
「無事入学できているし問題ないよ」
「で、話を戻すと今年はどうする?
あんまり高価なものだったらバイトも考慮するぞ」
「ボクのために労働してくれるのは嬉しいが…
ちなみにどんなバイトを考えてるんだい?」
「短期になるから引っ越し屋とかイベントスタッフとか?」
何をやるにせよ身体を動かす仕事がいいかなぁ。
短期でなければ接客業とかもアリだ。
「ホストクラブとかどうだい?
キミの出勤時間はボクが全部リザーブするよ!」
「学生の身分でできるか!」
ホストをやる気はないが、コイツならあっさりNo.1になれそうだな。
「まぁ、何の仕事をするにせよ社会経験としてはアリだと思うが、うーん…」
珍しく考え込んでいるが、なんだ?
「オレもまだ決めてないし、今はそんなに考え込まなくてもよくないか?」
「ああ、いやなに、欲しいものはあるんだけどね…」
「うん? そんなに高いの?」
「いや、高くはない。
考え方によっては値段は付けられないが、なんというか希少価値が高いというか…」
「ああ、手に入りづらいのか」
「いやいや、手に入れるのは簡単というか、すでに手元にあるというか…」
「うーん、まったくわからん」
「それを貰うなら、こちらも同じモノを差し出す覚悟が必要というか…
いや、覚悟という意味ではもう完了してるけどね」
律儀なコイツのことだ。良いモノをねだるのだから同じくらいのモノを差し出さないと気が済まないのだろう。
「まぁ、決まったら教えてくれ。
オレが用意できるものならがんばるぞ」
「その言質はしかと受け取っておこう」
なぜか、王子様の目がギラリと光った気がした。
「龍の首の玉とかはやめてくれよ」
「燕の子安貝でもないから安心してくれ」
そんな他愛もない会話をしながら、オレと王子様は昼飯を終えた。
食後の満腹感に浸っていると、隣に座る王子様が自分の太ももをぱんぱんと叩いた。
「さあ、食欲を満たしたら次は睡眠欲を満たすのはどうだい?」
ほどよく引き締まった足だ。弾力がありつつも至福の柔さがあるに違いない。
スカートをパンツが見えないギリギリまでずらす。
「ほらほら、膝枕だよ。
今朝は日直でいつもよりも早かったんだ。
遠慮は無用だ」
王子様が機嫌良さそうにオレを誘うが、オレとしては気が気でない。
…コイツ、今朝もそうだったがからかい方のタチが悪いぞ。
健全な男子高校生の性欲を嘗めている。
手を出してやろうか。
「…っ」
そのむしゃぶりつきたくなるような太ももに、ホントにしゃぶりついて太ももの間に顔を埋めて良い匂いをクンクン嗅ぎながら逃がさないように折れそうなほど細い腰をがっちり捕まえて…
思わず手を伸ばしかけたところで、黄色い声でストップがかかった。
「…ちっ」
めくったスカートを戻しつつ、本当に珍しくイラついた顔で舌打ちをする王子様。
コイツを呼ぶ声と共に、取巻き達がやってきたのだ。
慌てて手を引くオレと、あっという間に表情を作り上げて朗らかに笑う王子様。
「お姫様達が来てしまっては仕方ないね。誕生日の話でテンションが上り過ぎてしまったよ」
上体を屈めて頬にキスするように、「続きはいつでもいいからね」と囁いて、オレから離れていった。
なんとも言えない、取り残されたような気持ちになる。
アイツの周りに人だかりができるのはいつものことだ。
休み時間には男女問わず、別け隔てなく、誰彼構わず、節操なく社交的な付き合いをしてるではないか。
クラスメートなんだから、なんらおかしい事などないはずだ。
「チッ…」
今度はオレが舌打ちをすることになった。
なんなんだ一体!
最近のアイツはからかい方がおかしい。
昔から茶化すクセはあったが、それはほどよい距離感だった。
いつからだ? ヤツのからかい方に露骨に性が絡んできたのは…
昔から聡いヤツではあった。本人は目立つことを好んではいないが、容姿も能力もそれを許さない。常に先のこと考えて、二手三手先の布石を打つなど当たり前。意味のないことなどしないヤツだ。
アイツなりの理由があるんだろうが…
「…」
思考が変な方向に行きそうだ。
遠くの方にアイツとアイツを囲む女子どもが見える。周りの女どもの判別はつかないが、ここからでもアイツのことだけは、はっきりと識別できた。
隣にはポツンと置かれた、二本の缶コーヒー。
オレの好みに合わせたブラックと、アイツ用のカフェオレだ。
エスプレッソなど似合いそうだが、ヤツは甘党なのだ。
カフェオレをポケットに突っ込み、缶コーヒーのプルタブに指をかける。
なんとなく…ではないな。オレは明確なイラつきを持ってプルタブを開封した。
「…はぁ~」
一気に飲み干して、大きくため息をつく。
イラついてた理由なんてわかりきっている。それはオレが…
自分の心中に深く入り込んでしまいそうになったところで、スマホにメッセージの着信があった。
このタイミングならだいたい予想はつくが、案の定王子様からだ。
『さっきはすまないね。
膝枕をしてボクの太ももを堪能してほしかったんだけど、邪魔が入ってしまった。
代わりを送るので、残りの休み時間はこれを見て過ごして欲しい。
使ってくれてもかまわないよ』
オレがメッセージを読み終えると同時に、次のメッセージが届く。
…どっかで見ているのかな?
代わりってなんだよ、と思っていたら、美味そうな太ももが大写しになった画像が送られてきた。
「こ、これは…」
一目見てわかるオレもどうかと思うが、間違いなく王子様の太ももだ。
白くて、まぶしい。
そして、ほんのちょっとだけデルタゾーンが見えているような…
太ももとデルタが織りなす魅惑の隙間がこれまた…
薄ブルーのストライプなので、撮りたてだね!
「…って! アイツなにやってんだっ!?」
『使う』ってそういうことか!
察するに場所はトイレかな。
思わず周りを確認してしまうが…よかった、誰もいない。
オレは安心してスマホを操作し、きっちりしっかり間違いなく画像を保存した。
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