10回目の夢【KAC20254・あの夢を見たのは、これで9回目だった。】第二弾
カイ 壬
10回目の夢
あの夢を見たのは、これで9回目だった。
そこにはなにもなく、ただ闇が広がっていた。
星の明かりさえなく、ただ宙を漂っていた。
そばに誰かにいないか気になって声を出そうと試みる。
しかし口の中に砂が詰め込まれたような感覚で声が出ない。
必死に砂を掻き出そうと指を突っ込んでほじくり返してみるが、そう簡単にすべての砂が取り除けるはずもなかった。
なにか物音がしないか耳をそばだてたがなにも聞こえない。
もしかして、これが「死」だろうか。
いや、まだ考えることができている。本当に死んだのなら考えることすらできないはずだ。
心臓が止まり、血流が滞って血が固まり、細胞が次々と死滅していく。
神経の伝達がいつ止まるのかは想像さえできない。
だが、もし本当に死んだのなら、見えなかろうが聞こえなかろうが、そう感じることもそう考えることもできないはずだ。
だからまだ私は死んでいない。
生きてはいるが、この闇の世界から抜け出すことができない。
だから夢の中にいたことを私は理解している。
そしてこれが9回目であったことも数えてある。
初回と2回目は頓着しなかったが、3回目からは「これはなにかある」と感じてカウントすることにしたのだ。そうして不定期に見る夢ではあったが、これが9回目であることが判明している。
まったく同じ夢を何回見れば、なにかが起こるというのだろうか。
キリを考えれば次の10回目になにかが起こるかもしれない。
人生を最初からやり直すことになるのだろうか。
命にかかわるなにかが起こるのか。だとすれば事故に巻き込まれるのか。
それとも神様から祝福を授かるのだろうか。
神様とつながるために徳を磨くために夢の世界で修行させられているのかもしれない。
もし神の世界へ案内されるのであれば、私は悟りの一歩手前にいるのだろうか。
だが、日本人は古来「悟る」必要などない。
そもそも日本人は神の分霊であり、産まれたときからすでに境地に達しているとされている。
今さら「悟る」のではなく、「悟っていた」頃を思い出す、というのが正しいだろうか。
であれば、この暗闇は産まれた頃の記憶なのかもしれない。
これで母の鼓動を感じたら、それは確実なものなのだろう。
鼓動で思い出したが、今私は脈を打ち、息をしているのだろうか。
とくに意識しなかったので今まで気づかなかった。
もしかして、今までの9回の夢は、本当は現実であり、夢から覚めたと思っていた日々こそが産まれる前に見る夢だったのではないか。
現実世界の予行演習としてこれまで9回の目覚めを繰り返してきたのではないか。
聴覚を意識すると、心臓が拍動する音が聞こえてくる。
これは私の心音だろうか、母の心音だろうか。
10回目の夢ですべてが判明するのかもしれない。
もしかしてそれがちょうど十月十日に当たるのかもしれないからだ。
そして今日もまた、虚ろな日常へ向かって歩き始めるのであった。
10回目の夢【KAC20254・あの夢を見たのは、これで9回目だった。】第二弾 カイ 壬 @sstmix
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます