あの夢を見たのは、これで9回目だった。と僕は言った

黒墨須藤

あの夢を見たのは

 あの夢を見たのは、これで9回目だった。


 そう、9回目だ。

 10回でも、8回でもない。9回だ。

 

 「そう」

 それを聞く彼女は、ジトっとした目で僕を見つめる。

 「アタシはそれ聞いたの、9回目だかんね」


 どういうことだ……?

 僕の「あの夢を見た」ということを聞いたのが、9回目ということか?

 8回ではなく? 10回でもなく?

 

 「バカな」

 僕は変わらず、感情の分からないジトっとした目を向ける彼女に、問いただすように言い放った。

 「ちゃんと数えていたと言うのか!?」


 「それはどうかな」

 表情を変えないまま言い放つ彼女に、僕は驚愕した。

 「数も数えられないのか!?」

 そう言って、ハッと自分の口をふさぐ。

 言い過ぎた。彼女が数も数えられないと、見下しているようじゃあないか。


 「あの夢を見たのは、これで9回目だった。って言ったのが9回目よ」

 「そんなバカな!」

 思わず大きな声を出してしまった。

 それほどショッキングな事だったのだ。

 つまりあの夢を見たのは、81回だと言うのか。

 「……ということは、だ。次にあの夢を見たら、10回目と言うのか?」

 そういうと、彼女は困ったように眉をひそめた。

 「分からないわ」


 「だってアナタ、あの夢を見たのは、これで10回目だった。って6回言ってるもの」

 ガクガクと足が震え、冷や汗が垂れるのが分かる。

 彼女の言うことが本当なら、僕はあの夢を141回見ていることになる。

 いや、まだそうと決まったわけじゃない。

 「……君が本当のことを言っている証明は?」

 彼女が嘘を付く理由は、僕には思い当たらない。

 しかし、だからと言って本当のことだけを言っているとは限らないのだ。


 「……あの夢を見たのは、これで1回目だった。とは言っていないわ」

 その返答に、僕はその真意を測りかねて、口を閉じた。

 もちろんそれは本当だろう。少なくとも僕は、1回目とは言わない。

 「信じる信じないは、アナタの自由。それでアナタは、あの夢に囚われ続けるだけ」

 そう言って彼女は、踵を返す。

 「それじゃあ、また会いましょう。あの夢が続く限り」

 「待て、待ってくれ! あの夢はいつまで続く!? この夢は、この夢はどうなる!」

 

 「トリの降臨」

 彼女は意味深につぶやくと、そのまま立ち去って行った。

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あの夢を見たのは、これで9回目だった。と僕は言った 黒墨須藤 @kurosumisuto

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