夢まじない
国城 花
夢まじない
あの夢を見たのは、これで9回目だった。
「へぇ。どんな夢だったんですか?」
煙管をふかした怪しげな男は、そう尋ねてくる。
「自分が女になっている夢だった」
「いいじゃないですか」
「俺は男だ」
「夢の話ですよ。それで、どんな女性だったんですか?」
怪しげな男は、興味ありげに聞いてくる。
「黒髪で…髪が長い女だった。顔はよく分からないが…優しそうな人だった」
「あなたとは真逆ですねえ。その人は、夢の中で何をしてるんですか?」
「お前みたいな怪しげな女と話していた」
「ワタシみたいな趣ある人と。いいですねぇ。何をお話しになっていたんですか?」
何だったか…と、夢の内容を思い出す。
「天気の話だとか…趣味がピアノで、仲の良い友人がいるらしい。あとは…職場に想い人がいて、その話をしていた」
「いいですねぇ。恋バナですか。ワタシともします?」
「遠慮する」
男同士でそんな話はしたくない。
「怪しげな女に、想い人のことを相談していた。どうすれば、もっと近付けるのかと」
「趣のある女性は、なんと言っていましたか?」
「願いが叶うまじないがあると言っていた」
「まじない?」
怪しげな男は興味があるのか、身を乗り出す。
「どんなまじないだったんですか?」
「確か…想い人の髪とか爪だとかを手に入れて、夢枕に置く」
「ほうほう」
「願いを思い浮かべながら眠ると、想い人の夢に入れるのだとか」
「夢に入って、どうするんですかねぇ」
「どうって、願いを叶えるんじゃないのか」
「例えば?」
「想いを伝えるとか?」
「こんな風に?」
ドンッと体に衝撃が走る。
怪しげな男が自分に抱きついている。
いや、男ではない。
黒髪で、髪の長い女が抱きついている。
ニタリと、女が笑う。
「あぁ、これで私の願いは叶った」
自分の腹に、刃物が突き立てられているのにやっと気付く。
「そう、だった…」
男は、思い出した。
「願いを叶えるためには…それぞれ、同じ夢を9回見なくてはならない」
「そうよ。ワタシは、あなたの夢を。あなたは、ワタシの夢を。あなたが途中で気付けば、願いは叶わない。気付かなければ、ワタシの願いは叶う」
女が刃物を抜くと、血しぶきが上がる。
「夢の中の死は、果たして本当に夢で終わるかしら」
夢まじない 国城 花 @kunishiro
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