今日は絶対安眠
むかではみ
仕事を続けるために
あの夢を見たのは、これで9回目だった。
ということは他の夢を幾度も見ているということでもある。
デエビゴ錠と検索すると「悪夢」と出てくるくらいには、ぼくの飲んでいる薬は謎な副作用がある。飲んで眠ると多くの人が悪夢にうなされる。でも他の薬との組み合わせがしやすく過剰な副作用がでない辺りで使いやすい薬であった。
お医者さんにも「悪夢」見たりしないか?と聞かれるのだけれども、薬が変わって別な副作用で悩みたくないな~と思うあまり、いつも「別に見ませんね~」と答えてしまう。本当は夢の内容を赤裸々に話したいし、何でこんな副作用が出るのかを小一時間ほど問いただしたいが、それは先生とワタシどちらも不幸になるばかりの時間である。
あの夢を見たのは、これで9回目だった。
眼球をくりぬかれて中に蜂蜜を流し込まれる夢。舌に乗せているわけでもないのに口に甘い匂いと痺れるような舌触りが広がる。
快か不快かでいうなら間違いなく不快だ。でも薬を変えなければならないほど不快かと言えばそんなことはないと答える。何せこの薬は朝まで残らない。起きるときには冷や汗びっしょりでも仕事に影響しないのだ。今は休職中だけれどもいつか仕事に戻るとき、眠れないなんてことになったら敵わない。
あの夢を見たのは、これで9回目だった。
職場に行って事故を起こしてそのせいで人が死ぬ夢。あり得ないことではない話だ。快か不快かでいうなら間違いなく不快だし、仕事に影響するかしないかというと間違いなくコンディションが落ちるのは言うまでもなく。でも、薬を飲むと眠れるのだ。不眠ほど仕事の集中力を削ぐものはないから。
本当に事故が起こってしまったらどうしようかとか、本当に自分の行いが原因で人が死んでしまったらどうしようかとか不安になればなるほどコンディションってのは落ちていくものだ。それなら悪夢を見てでも寝た方がいい。実際に事故が起こるかもしれない、実際に人が死ぬかもしれない。だけど自分の足音一つでどこかで事故が起こらない保証はないし、自分の呼吸一つで地球が滅ばない確証はない。起こるか分からないバタフライエフェクトを気にしたってしょうがない。やれる仕事をやれるようにやるしかできないのだから。
あの夢を見たのは、これで9回目だった。
これから何度もいろんな夢の9回目を更新するだろう。その度に不眠~安眠の間を揺れることになる。
それでもより確実なコンディションのためにぼくは薬を飲み続ける。
とてつもない功績を残すために寝るのではなく、不眠を乗り越えて確実に睡眠をとり、凡庸な仕事振りを安全に発揮し続けるために。
今日は絶対安眠 むかではみ @honedachi
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます