あの夢
ぴすぴす
あの夢
あの夢を見たのは、これで9回目だった。
なんとも不思議で不可解な夢を見たと思った。
寝ていると黒い「あ」の文字が浮かび上がり、少しずつこちらに近付いてくる夢だ。
「い」でもなければ、「う」でもなく、「え」ですらなく、当然「お」でもない。
最初の頃は言い知れぬ恐怖感を感じていたが、ただ徐々に近付いてくるだけで何も起きず、目の前いっぱいまで近づいたと思うとそこでいつも目が覚める。
目を覚ますと背中に汗をびっしょりと掻いているので、いつもとても不愉快だった。
どことなくと寝つきもよくないようで、目の下のクマが日に日に濃くなっているような気がした。
起きている時は常に倦怠感を感じていて、どうやら疲労も取れていないように感じる。
連日これではノイローゼにもなるというもの。
そのせいか昼間によく眠くなることがあった。
その日も昼食を食べた後、どうにも眠気が納まらないのでうとうとと昼寝をしてしまった。
すると、またあの夢を見た。
あの夢を見たのは、これで10回目だった。
もういい加減にして欲しい。
何の代わり映えもしない、「あ」の文字はいい加減見飽きていた。
せめて、「あ」以外の文字が出てきて欲しい。
そうすれば次は何の文字が出るのかちょっと夢を見るのが楽しみにもなるだろうに。
何で毎回「あ」ばっかりなのだろう。
何か「あ」に思い入れでもあったであろうか。
いくら考え込んでも答えは出なかった。
その日の、夜。
また、あの夢を見るのだろうと私は半ば諦めていた。
せめて快眠できるようにと、寝る直前に湯舟へと入り、甘いホットミルクを作って飲み、いい香りのするお香を焚いて、部屋を暗くし、アイマスクをつけて眠ることにした。
そうするとどうだろうか。
あの夢を見なかった。
それどころか夢すら見なく、ぐっすりと快眠できたのだ。
遂に解放された!
あの夢の呪縛から解放された私は歓喜した。
寝汗も掻かず、目の下のクマも薄くなり、倦怠感も感じないし、昼間眠くもならない。
ああ、なんと素晴らしい!あの夢を見なかっただけでここまで快適に生活できるとは!
私は久々に満足感を感じる一日を過ごし、ほどよい疲労と共にベッドへと身体を横たえた。
そして、「い」の夢がはじまった。
あの夢 ぴすぴす @PeacePieces
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます