あの夢を見たのは、これで9回目だった。(KAC)

滝川 海老郎

本文

 あの夢を見たのは、これで9回目だった。


「はぁはぁはぁ……」


 酷い動悸がする。

 ドラゴンとの遭遇そして戦闘。

 夢の中のドラゴンはとても立派で、そして恐怖の象徴でもあった。

 硬い鱗を持つ、巨大なトカゲ。大きな翼を持ち、その力は世界一だとされる。

 怒り狂うドラゴンを前に、戦う騎士たち。

 援護の魔術師たち。そして聖女様。


 聖女様はとても美しくて一目惚れしてしまいそうだ。

 あれは、僕たちのいる国、アラスーン王国第三王女フィリア・カーティス様だったと思う。

 以前、パレードで見た美しい衣装姿を思い出させる。


 今年で十二歳と幼い彼女だけれど、一生懸命にドラゴンにもひるまず聖魔法の支援魔法を唱えていらっしゃった。夢ではあるが、その果敢な姿は胸を打たれるものがある。

 そういう僕もまだ十五歳。見習い騎士アルン・ディートであった。

 いつか、このような立派な仕事ができるのだろうか。


「聖女様、かっこいいし、かわいいんだよな」


 聖女様と一緒に旅が出来たらどんなに素晴らしいか。

 あの笑顔がチャーミングでたまらないのだ。

 パレードで見かける以外に、王宮の警備中でもお見掛けすることがある。

 そして、運がいいと俺たちに一声かけてくださることもあるのだ。


「騎士様、いつもありがとうございます。フィリアは助かっておりますわ」

「は、はい! 滅多にないお言葉、ありがとうございます」

「頑張ってくださいね、ふふふ」

「はい!」


 こんな感じだ。私語までは許されていないが、もう少しお話をすることもある。

 幼いながらも聡明であり、政治にも詳しい。

 今では第三王女派といえば、知的な人たちの集まりであり、一般貴族の憧れだ。

 派閥というよりも、政治の御意見番のような立場だろうか。

 主流派には国王派と宰相派があり、第三王女派は国王派の派生派閥だった。


 今日も新兵は王宮とわりと外側の警備をする。

 ただし正面玄関などは例外でかなりのベテランが配置されている。


「聖女様、こないかなぁ」

「あーなんだか最近忙しいらしいな」

「へぇ、なんで?」

「なんでも、西のベードリグまで遠征に行くとかで、その前に雑務をこなすんだと」

「へぇ」


 ベードリグは王都よりも西海岸にある風光明媚で有名な港町だった。

 そしてベードリグ遠征の時になった。

 騎士全員を前に部隊長が発表する。


「あー今からベードリグ遠征に同行する騎士を発表する」

「――最後にアルン、以上のメンバーだ」


 やった!俺も姫様の旅行に同行できることになった。

 是非、仲良くなりたい。絶対にだ。

 やる気がみなぎってきた。楽しみだなぁ。

(了)

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