競馬に夢を見る

天星 水星

第1話

 あの夢を見たのは、これで9回目だった。


 何度も何度も同じ夢を繰り返し見た。そしてそれが夢だったと知って絶望する。その繰り返しだった。どうして俺はあの時あっちの選択をしなかったのか? どうしてこっちを選んでしまったのかと自問自答を繰り返してしまう。

 結局のところ俺はまだあの時の光景に捕らわれているのだろう。一手、たった一手違えば俺の人生はバラ色だった。今のようにこんな寒い家で暮らすことなく豪遊できたはずだった。


 あまりの悔しさに涙が溢れて止まらない。それくらいショックだった。いつまでもこの悔しさは心に残り続けるだろう。そうたった一手!


「なんであの時アイドルホース(馬の名前)じゃなくてマスクドホース(馬の名前)選んじまったかなぁ!!!」


 競馬で3連単の3着目を外したことを忘れることはない!





 その日はなぜか運がよかった。道を歩けば青信号でスイスイ止まることなく進めた。自動販売機でジュースを買ったら、当たりが出てもう一本無料でゲットできた。

 だからかなんとなく近くにあった競馬場に足を運んだ。そして適当に単勝の1着を当てる馬券を1000円買ってみたところ、なんと当たった。しかも倍率は12倍だった。

 なんとなく1000円買った馬券が1万2000円になったのだ。もう興奮がすごかったがそれだけで終わらない。その後も少しの額を賭け続けて当たり続けた結果、最終的に10万円になった。


 1000円が10万円だぞ! もう働くのが馬鹿らしくなるような金額だ。もう興奮で頭がおかしくなりそうだった。いや、実際おかしくなっていたのかもしれない。だからあんな馬鹿なことをしたのかもしれない。

 競馬には高倍率の3連単という賭け式がある。それは1着-2着-3着の馬を当てるという難しい馬券、しかもその時のレースは18頭立てで最多頭のレースだった。単純計算で全通りの馬券を買うと、4896通りにもなる。競馬初心者の俺からすると当たるだけで奇跡と言ってもいい。その3連単を買った。しかも1点賭けで10万円突っ込んだ。


 もうね馬鹿じゃないかと。冷静に考えるとそんなお金をドブに捨てる行為だと気づけただろう。だが頭のおかしくなっていた俺には、賭ければ当たるという思考しかなかった。

 結果は外れた。あまりのショックに茫然自失だった。そして今でも夢に見てしまう。3着目にアイドルホースを選んで、ウハウハ状態の俺の姿を! モテモテになった俺の姿を! それだけショックが大きくてまだ引きずっている。


 何回か競馬場に行こうとしたが、そのたびに息切れが激しくなった。もう完全にトラウマだ。

 そして俺は今日も夢を、10回目の輝かしい夢を見る。

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競馬に夢を見る 天星 水星 @suiren012

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