幼なじみとの「10回試してくれないか?」

花月夜れん

第1話

 あの夢を見たのは、これで9回目だった。

 オレ、中野敦也は夢を見た。おさなじみの女の子が目の前で殺される夢だ。

 涙が流れる。

 彼女がどうして――。

 彼女はどうして――。


 彼女の名は津田まなみ。そして今、オレは彼女になっている。もうすぐ殺しにくる。アイツが。

 一度目は何もせずただ殺された。二度目は逃げた。ただ、またここに戻される。三度目は隠れてみたが失敗に終わった。四度目は話し合いをしようと相手に持ちかけたが失敗に終わった。五度目は相手を殺した。けど、相打ちだった。もう嫌だ。殺されるのが自分でなくてもおかしくなりそうだ。

 六度目、もうどうにでもなれと諦めた。殺された。

 七度目は笑いながら相手に殺されないように殺した。成功しなかった。

 八度目は入ってくる瞬間、不意打ちで相手の脳天に椅子を振り下ろした。

 そして、いま。殺しても殺されても逃げてもここに戻される。どうしたらいいんだよ。どうしたら正解なんだよ!! オレには難しすぎる。ミステリー好きな彼女なら解けるかもしれないけれど、いま中身はオレなんだから!!


 相手がくる。階段を上ってくる。もう嫌だ。諦めてくれ。

 扉が開く。そこに立つのはオレだ。オレがオレを殺しに来た。

 もういいよ。もう諦める。

 だから、そろそろ解放してくれ。


「まだ諦めないでよ」


 オレが笑う。オレはここにいる。オレの中にいるのはいったい誰だ?


「もう少し付き合ってよ。だってあと――」


 もう嫌だ。これ以上は殺すのも殺されるのもごめんなんだよ。


「まったく。それじゃあここまでにしようか。まあ確かに疲れたよね。十回目まで精神が耐えれなさそう」


 ―――ブツンッと電源が切れる音がした。


「おはよう。敦也君」


 彼女と交わす朝の挨拶。


「おはよう、まなみさん」


 津田まなみは生きている。

 というか、死んでなんていない。あの夢も夢なのだ。どうして何度も同じ夢を見たのかって?

 あれは最近のAIアプリ。AIに質問すると答えを夢で体験させてくれるんだ。

 オレが聞いたのは、彼女に告白した場合の未来。10個ほど見せてくれとお願いした。そしてあのザマだ。

 聞き方が悪かったのかもしれない。


『ミステリー大好きな彼女、津田まなみに告白して成功した未来』


 ミステリー大好きなんて言わなければ良かった。ああ、でも……。


「ねえ、昨日の黄色列車殺人事件見た!? 血の飛び方なかなかだったよね。あそこのトリックはさあ、もっとこう――」


 もし付き合って毎日夜遅くまでこんな会話をしたとする。殺人事件の悪夢にうなされそうなのは確かにAIの考える通りかもしれない……。今だってこれなんだから。

 だけど、それも含めて彼女が好きなのだからどうしようもない。どうすれば正解なのだろう。

 またAIに聞いてみるか。今度は聞き方に気をつけよう。

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幼なじみとの「10回試してくれないか?」 花月夜れん @kumizurenka

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