KAC20254ナナたんのおばちゃん

オカン🐷

涼子の夢

 あの夢を見たのは、これで9回目だった。


「もう、いい加減にして」

「どうかなさいましたか?」

「あっ、ごめんなさい。最近独り言が多くて、何でもないです」

「失礼いたしました」


 CAはお辞儀をすると、形のいいヒップラインを誇るように航空機の通路を歩み去った。

 ああ、またやっちゃった。

 独り言どころか寝言まで大きくなるなんて。




「ウワア、涼子帰ってたのか」

「何よ、久々に会う妹に対する第一声がそれ」

「いや、久々すぎて誰だかわからなかったよ」


 リビングのカウチに子どもたちに交じって座る妹の涼子は、実年齢よりかなり老けて見えた。


「おまえの可愛いミドリムシはほうっておいていいの? 親父の葬儀にも顔を出さないくらいだったのに。おっ、親父には挨拶はすませたの?」

「いの一番にすませたわ」

「そうか。でっ、そのミドリムシはうまいこといっているのか?」

「兄さん、知らないの? もうサプリメントになって実用化されてるじゃない」」


 カズは顔をしかめた。


「うへえ、そんなの食べるやついるのか?」

「そんなこと言っていたら食糧難の危機的状況になったら困るわよ」


 ルナが煎れてくれたお茶をカズはゆっくりと飲み干した。


「旨い。いい香りだ」

「それ、涼子さんの日本からのお土産のお煎茶」

「へえ、そういう気遣いもできるんだ」

「それ、どういう意味よ」


 ハハハ


「パパ、今日はよくしゃべるね」


 長男の隼人が少し驚きの表情でいた。


「ハヤト、パパいつもはあまりしゃべらないんだ」

「うん」

「兄さん、ムッツリなんだ。ムッツリスケベ」

「ママ―、むっちゅりちゅけべってなあに?」


 ナナが興味深そうに訊いた。


「ナナちゃん、ムッツリスケベってね」

「涼子、子どもに何を教ええるんだ。いい加減にしろ」

「ハハッ、怒られちった」


 首を竦めナナと目を合わせた。

 ナナも同じ様に首を竦めている。


「ナナちゃん、ママに似て良かったね」

「ナナ、ママににてゆ?」

「うん、すごく可愛い」


 隣に座るナナの頭を撫でた。


「おふくろとは話をしたのか?」

「さっきまでずうっとしゃべっていて、疲れたからちょっと休むって。それがさ訊いてよ」

「「訊いてるよ」

「同じ夢を9回もみたの。ママが出てきて。飛行機の中まで出てきて……」



             【了】



 

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