第4話
きなこもちのおかげで、なんとかいい感じに風邪をひけそう。そう思ったのに、全くの平熱だった。
あんなに寒い思いをしたのに。わたしってどれだけ丈夫なの!?
あの、いい感じに見た10回目の夢はなんだったの! 正夢的なものだと思ってたのに!
「きなこもちをカイロになんてするんじゃなかった! きなこもち、あなたいい感じに風邪をひかせてくれるんじゃなかったの!?」
「ニャー」
抗議するけど、きなこもちは知らないよって感じで声をあげる。
うっ、そうだね。わたしが勝手にそう思っただけだったね。ごめんなさい。
けどまずい。これじゃ、風邪ひいて休むなんて無理だよ!
悪夢のスキー教室が現実になる。雪玉になって転がっちゃう! 友沢くんの前で恥ずかしいことになる。どうしようーっ!
困っていると、部屋の外からお母さんの声が聞こえてきた。
「有紗ー! いつまで寝てるの。いい加減起きなさーい! 今日はスキー教室があるんでしょう」
わわっ! とりあえず、早く服を着よう。
パパッと着たところで部屋の扉が空いて、お母さんの登場。
その瞬間、わたしの頭脳はフル回転。ここで元気な姿を見せたら、いよいよサボれなくなる。それだけは、なんとしても阻止しなければ!
「ゴホッゴホッ! お……お母さん。なんか体がダルくて寒気がして、熱もあるみたい」
こうなったら最後の手段、仮病だ。目覚めよ、わたしの中に眠る女優魂。アカデミー賞ものの演技で、風邪をひいたふりをするんだ。
「あら、そうなの? 熱があるって、どのくらい?」
「ギクッ! こ、これから測るところ」
まずい。いくらアカデミー賞ものの演技をしたって、体温計はごまかせない。
とりあえず、お母さんは朝ごはんの準備があるでしょって言って、わたしが熱を測っている間、部屋を出てもらう。けどこんなの時間稼ぎにしかならない。
体温をはかってバッチリ平熱なのを見せたら、こんな嘘すぐにバレちゃう。なんとかして、熱を高くしなきゃ。
って、そんなのできたら苦労しないよ。どどど、どうしよう!
「ニャーニャーニャー」
「きなこもち、ごめん。わたし、今すっごく大事なこと考えてるの。後にしてくれないかな?」
悪いけど、構ってアピールも今はダメなの。
なのにきなこもちは、ゴロゴロとわたしに擦り寄ってくる。
暖かくて気持ちよくて、これはこれで大きな癒しになるんだけど、こんなことしてる場合じゃないんだよね。
「ん? 待てよ……?」
きなこもちに擦り寄られながら、わたしにある考えがひらめいた。
〜〜〜〜
「38度。ほら、しっかり熱があるでしょ。ゴホッゴホッ!」
わざとらしく咳をしながら、38度と表示された体温計を、お母さんに見せる。
「あら、本当ね。仕方ないから、今日は学校はお休みね」
やったー!
思わずバンザイしそうになるけど、今のわたしは病人だ。グッと堪えて、大人しく布団の中に入っていく。
お母さんが部屋から出ていったところで、またもきなこもちがやってきた。
「ありがとう、きなこもち。きなこもちの体温が高いおかげで、なんとかなったよ」
そう。実はさっきお母さんに見せた体温計の数値は、わたしじゃなくてきなこもちの体温を測ったものなの。
猫の体温は、人間よりもずっと高い。そんなきなこもちに代わりに測ってもらったら、見事に学校を休むくらい高い熱のできあがりってわけ。
いやー、我ながらよくぞ咄嗟に思いついたよ。
「ニャーニャーニャー!」
「えっ、なに。卑怯なことするなって? ごめん。わたしだって、本当はやっちゃダメだってわかってるよ」
仮病もズル休みも、本当はいけないこと。今回はどうしてもどうしても嫌だから悪魔に魂を売ったけど、こんなことは二度としません。
今回はなんとかなったけど、体温計がきなこもち頼りだといつかお母さんにバレるかもしれないし、『寒くて風邪をひこう大作戦!』は、今度こそ凍死しちゃうかもしれないからね。
これを読んでるみんなも、マネしちゃダメ。
特に冬の寒い日に窓を開けて寝るのは、真剣に命が危ないから。普通は猫ちゃんを抱っこしたくらいじゃどうにもならないし、猫ちゃんだって凍死や風邪をひく危険があるんだからね。
死にたくなかったら、絶対にやらないように!
スキー教室なんて行きたくない! 風邪をひいてサボると決めたわたしの奮闘記! 無月兄(無月夢) @tukuyomimutuki
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