フェアリーサークルの逃走劇

ヤミヲミルメ

山小屋は包囲されていた

 親愛なる我が読者よ!

 惨劇の夜は明け、嵐のやんだ、森の中。

 あちらこちらの梢から、昨夜の雨水がしたたっている。

 ヤツが逃げ込んだ古くて小さな山小屋は、まばゆい朝日に照らされて、警察官に包囲されている。


 前々回の事件を覚えてくれているかな?

 和風ミュージカルの伴奏の、五人囃子の内の四人が共謀して、大鼓おおつづみ奏者を殺害した事件。

 ヤツとは逃亡中の犯人の一人、太鼓たいこ奏者のことだ。



 今、警官隊が突入した!


 おや? 様子がおかしいな。

 馴染みの警部が私を手招きしている。

 私たちも山小屋に入ってみよう。

 ああ、キミ、足もとに気をつけたまえ。

 濡れていて滑りやすいぞ。


★★★


 ここには、太鼓奏者が隠れているはずだった。

 しかし山小屋の中は、もぬけの殻。

 警察官たちのざわめきに、床がキーキー軋む音ばかりが響く。


 部屋は玄関を入って一つだけ。

 暖炉にクローゼットにと、身を隠せる場所はあるにはあるが、警察官がくまなく調べているのに太鼓奏者はいない。


 ボロボロの床板には、白っぽいキノコが環状に生えている。

 いわゆるフェアリーサークルというやつだ。

 神秘的に見えるが単なる自然現象。

 環状のキノコの下に、キノコの根っこが円を描いて広がっているというだけのものなんだ。

 ……太鼓奏者が妖精の力で姿を消したなどということは、ありえない。




 太鼓奏者が山小屋に入ったのは間違いない。


 くり返すが山小屋は警察官に包囲されていて、仮に太鼓奏者が窓やドアや壁の隙間から外に出たとしても、そこですぐに捕まえられる。


 警部は、フェアリーサークルが実は隠し扉のフタになっていて太鼓奏者に地下へ逃げたのではと疑っているようだが、いくら調べても床が開く様子はない。


 このフェアリーサークルのキノコには、幻覚作用をもたらすような毒はない。


 では、太鼓奏者はどこへ消えたのか?

 まさか本当に妖精に連れ去られたとでもいうのだろうか?


 シンキングタイム・スタート!













 小屋の外で雨が降ったからって、建物の中にまでキノコが生えるなんてそうそうない。

 床のキノコにばかり気を取られてないで上を見てごらん。

 フェアリーサークルの真上に天窓があって、そこから雨が入ってキノコが生えたんだよ。


 太鼓奏者は天窓から逃げたんだ。

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