第30話 わからない
「さーらー、おいっ、紗羅! 起きろ!」
ん……
目を覚ますと、ベッドの端っこにショータが座っていた。
「俺、今日ここ出て行くから。紗羅、もう大丈夫そうだし」
「な……んで?」
「あんな事件がなかったらもっと早く出て行くつもりだったし。その前に紗羅に話がある」
言葉が出ない。
だって、昨日……
昨日、ずっと手をつないだまま家に帰った。
玄関の暗証番号を入れようとして、その手を離そうとしたけれど、離してくれなかった。
「紗羅、好きだから」
そう言われて、玄関の前でキスをされた。
頭の中がふわってなるくらいキスが上手くて、近くで自転車のブレーキ音が聞こえなかったら、どのくらい続いたかわからない。
でも、家に入ったら、急にそっけなくなって、夜は、あっさり「おやすみ」って言われて、部屋の前で別れた。
「好き」って……
ショータもわたしのこと好きっていう意味……そう思ってた。
からかったんじゃないよね?
暇つぶしとかじゃないよね?
だって、姉弟はキスなんかしない。
ここ、外国じゃないし。姉弟は挨拶のキスなんかしないんだよ?
いろんなこと考えてて、気がついたら眠っていた。
それで、朝になってショータに起こされた。
「着替えるから出て行って」
「下で待ってる」
ショータが部屋を出て行ってから、ドアに向けて思いっきり枕を投げつけた。
出て行くって、お母さんのところに帰るってことだよね?
どうして今?
勉強の邪魔になるから?
……やっぱり……彼女がいる?
だからキス以上がない?
弟だから?
好きって言ってくれたじゃん……
雰囲気で言っちゃっただけ?
訳がわかんない。
情けなくて、苦しくて、ボロボロと涙がこぼれた。
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