第19話 失敗マカロンの行方
毎日家にいて、時間があるからだんだん掃除もするところがなくなってきた。
仕方がなく、観葉植物の葉を薄めたミルクで拭いたりしてみた。
ショータもいない。
大学で仲のいい友達は地元に帰ってしまっているし、高校の友達に連絡したら彼氏と旅行中だった。
どうやって時間を潰そうかと考えて、今まで一度も作ったことのないマカロンに挑戦する事にした。
ネットでレシピを検索すると、材料も家にあったし、作り方もそんなに難しそうに思えなかった。
失敗した。
何がいけなかったのか、原因をネットで調べ、もう一度チャレンジした。
失敗した。
今度は動画を探して、作り方を見ながら、再々チャレンジ。
失敗した。
味はレシピ通りだからか悪くないのに、膨らまなかったり、妙にネチョネチョした食感になったり、全然うまくいかない。
この失敗の山をどうしようかと考えあぐねていたら、いつもより随分と早い時間にショータが帰って来た。
失敗作が多すぎて、隠しきれない状態のキッチンに、ショータが顔を覗かせた。
「玄関入ったら甘い香りがしたと思ったんだけど……」
「失敗しました」
「マカロン風? マカロンもどき?」
「言わないで。恥ずかしい」
ショータが失敗の山の中から一つつまんで口に入れ、ふっとと笑った。
「フードプロセッサある?」
「あるけど、どうするの?」
「こいつらなんとかしてやりたいじゃん」
ショータは、柔らかいマカロン風をカリカリになるまでオーブンで焼いて、固いマカロンもどきはフードプロセッサで砕いていった。
結局全部を砕いて、それに薄力粉とバター、卵黄を加えて、クッキーにしてしまった。
オーブンで焼いている間、片付けも手伝ってくれた。
「どうしてお菓子まで作れるの? 料理もできるよね?」
「前にカフェでバイトしてたから。料理とか好きで、厨房で雇ってもらったんだけど、なぜか途中から接客にまわされて、辞めた」
「接客嫌いなの?」
「嫌いじゃないんだけど……めんどうで……」
「もしかしてお客の女の子にい言い寄られたとか?」
「そんなとこ」
「高校生とかすごいパワーで」
「自分だって高校生なのに?」
「あのさぁ」
ピーピーという電子音がクッキーの焼き終わりを知らせた。
「楽しみだね」
さっきまで微妙だったマカロンが、ショータのおかげで美味しそうなクッキーに変わっていた。
「早く冷めないかなぁ」
「紗羅ってさ、ホント食べるの好きだよな」
「えー? みんな好きでしょ?」
「そういうとこだよなぁ」
「何が?」
天板の上のクッキーを冷ますために網に移しながら聞いていた。
「俺、料理するの好きだから、美味しそうに食べる子まじで好き」
「へぇー、そうなんだぁ」
やばいやばいやばい。
「ポニーテールも好き」
人が両手が塞がってるのをいいことに、ショータは、わたしの一つに結んでいた髪のゴムを勝手に取った。
「あ、ちょっと……」
「じっとして」
ショータは、わたしの髪を器用にポニーテールに結び直した。
「やばっ。タイプかも」
「いい加減にして」
「夜ご飯何?」
「ショータの作ったクッキー」
「本気?」
「本気」
「姉ちゃん、俺の夜ご飯、落とさないでよ」
「え? 何?」
ショータは、指を首筋から下に向けて這わせていくと、背中の辺りで止めた。
「意地悪した方が悪い!」
「あ! ちょっと! ありえない!」
ショータは笑いながら2階に上がっていった。
わたしのブラのホックを指先で器用にはずして。
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