つくりばなしと嘘

のあ

第1話

「休みたりないよ~」

 日曜の夜、毎週この言葉を電話越しの彼女から聞いている。彼女は大学の同期で、卒業して就職してからお互いに色々あり、現在は離れた場所で暮らしている。元から適度な距離感で付き合っていたため遠距離になってからもお互いに不安はなく、最初は時々ラインをする程度だった。

「今週は何見てたの?」

「今回は韓国ドラマ観てたよ、たまに見るとクセになっちゃう」

 お互いに映画を観ることが趣味で、最初は時々映画館で見かける程度だった。たまたまお互いに閑散とした時間を狙っていたため認識していたくらいだ。映画館はそれぞれの時間を楽しむ場所であって、いきなり他人に話しかけられるような場所ではないと思っているので話しかけることはなかった。しかし、そんな場所もコロナによって変わってしまった。映画館は休業し、新作もどんどん延期、大学にも行くことがなくなりしばらく外に出ることもなかった。そんな状況で大学の前期も終わり長い夏休みに入った頃、久しぶりに行ってみようと思い映画館に行ったところ彼女に話しかけられたのが出会いだった。

「まとまった時間なくても観れるのはいいけど最終話までもやもやしちゃうのが悩ましいんだよね」

「全部観ると映画より長いからね、やっぱり一気に観れるのが一番」

「じゃあ何観てたの?」

「俺は変わらず観たことあるやつを観直してるよ」

 彼女は行動力もあり新作もジャンル関係なく楽しむ。一方の俺は好みがある程度わかっているからそっちに寄るし、微妙だなと思えば過去の作品を観ている。ホラー映画に誘われたときは大変だった。

「また今度一緒に色々観る旅行しようね」

「次は俺にも作品選ばせてもらうから」

 お互いに話が得意というわけではないため、会話が続くということではない。電話してても無言の時間はあるが、それはそれでいい。

 電話をするようになったきっかけは彼女からだった。ある日突然電話がかかってきて出ると「寂しくなったから」とだけ言われ、それから毎週電話をするようになった。理由を聞いても「私にだって寂しくなることくらいあるし」とのことで、遠距離になるってこういうことかなと納得している。そのときちょうどこちらも苦しい時期だったし、今も声を聞けるだけで元気をもらえるのは事実だ。電話だからといって仕事の話をできるわけではないし、これまでラインでしてたような観た作品の話ばかりだ。

「近い内に休み合わせてどっか行こうか」

「それならしばらく実家に帰れてないし二人で一緒に帰省含めて近くとかどうかな?そろそろ私達も大学の頃は~って懐かしく感じるくらいになってきたんじゃない?」

「んー、まあそれもいいかもね」

「じゃあ次の予定はそれで決定で。でもそんなこと誘ってくれるなんてどうしたの?」

「誘ってほしいみたいな声してたのはそっちだと思うけど」

「そんな声してないって~」

 会いたかったなんて恥ずかしいことは隠しながら。会って直接話したいこともあるがそれを言うと心配させてしまいそうなのでそれも隠しておく。

「じゃあもうそろそろ寝ないと」

「うん、この予定とかはまた来週とかに話そうね。誘ってくれたってことだけでまだまだ頑張れちゃうな~」

「頑張りすぎない程度にね」

「そっちこそね。それじゃあおやすみ」

「おやすみ」

 そうして今週もまた電話が終わる。とりあえずは来週やその先の予定をなんとなくではあるが作ることができた。話さないといけないこともあるし準備も進めておこう。

 寝ないととは言ったものの別に寝なくても問題ない。「なにが頑張りすぎないで、だ」なんてことを考えつつ横にはなる。いつもと変わらない俺で話せただろうか。そもそもいつもの俺ってどんな感じだったんだろうか。「そっちこそね」なんて言われたが何も頑張るものなんてないのに。来週の電話のためだけに生きる日々がまた始まる。

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つくりばなしと嘘 のあ @noaddr

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