Episode3・罪深い目覚め
目が覚めたら、知らない部屋のベッドの上に居た。窓から朝日が差し込んで、シーツの上に木漏れ日が踊っている。
頭が痛い。手でさすってみると、ガーゼが当ててあった。ズキンズキンする頭で、何が起きたのか考えようとしていると、隣に誰か眠っていることに気がついた。
そこに居たのは天使さまじゃなくて、若い男だった。しかも、不良みたいな。
男は、髪の毛を真っ白に染めている。おまけに、前髪をだらしなく伸ばしていて、毛先が目の辺りでサラサラと踊っていた。怖いことには、耳に大きなピアスまでぶら下げている。
……寝顔だけでもそうと分かる。とびきりの美少年だ。
おお、天使さま。一夜のうちにあなたは夢魔になったのですか?
なんて罪深い目覚め。わたし、見知らぬ男と同じベッドで寝てしまったわ。
わたしが両手を合わせて天に祈りを捧げていると、男が目覚めて起き上がり、わたしの顔に顔を寄せた。
「お目覚めですね。姫君」
男はそう言ってわたしに微笑みかけた。
目を開いた男は、特上の美少年……!!なんて眩しいの!
「ごめんね。隣に寝てしまって。場所がなかったんだ。俺たち、何もしてないよ」
男はそう言って頬をわずかに赤らめた。まぁ、まるでほんとの天使のように愛らしい。
「ち、近いわ……」
「昨日ほっぺたにキスしてくれたから、お返ししようと思ったのに」
男はそう言ってわたしの頬に手を触れる。触れられたところから、わたしの心臓めがけてビリリと衝撃がはしる。これって、トキメキ?静電気かと思っちゃった。
「連れて行って。なんて言うから、ドキドキしちゃったよ」と、言って男ははにかんだ。
まぁ、なんて無邪気な顔をするのかしら!ドキドキするのはこっちの方!
「き、昨日は、意識がなかったの。夢を見てたのよ」と、わたしは取り繕って答えた。
「夢? どんな?」
「サモエドとお花畑で遊ぶ夢よ」
「なら、俺のことを天使さまと言ったのは?」
「サ、サモエドの背中に羽が生えてたの」
「その、サモエドって何?」
「白いフワフワのワンちゃんよ」
わたしは、男の髪の毛を見つめた。真っ白に染められた髪は、朝日を浴びて柔らかく輝き、ふわりと揺れている。
「ふぅん。君、名前は?」
「染井アナン」
「アナン」と、男は復唱した。
男はわたしの目を見つめ、もう一度「アナン」と言うと、嬉しそうに微笑んだ。
その声はホッケーキの上のバターのようにわたしを溶かし、肌を粟立たせた。名前を呼ばれただけで、鳥肌が立ったのなんて初めて。
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