第48話 提案と拒絶
オーセの号令を受けて、騎士団の人々は集会所に集まってきていた。騎士団は戦争を通してその団員の数を減らしており、人数は戦争前の半分ほどになっていた。集会所はざわついていたが、オーセが姿を現すと、すぐに静まった。
「戦いの後始末、お疲れ様。早速だけど、本題に入るわ。私たち騎士団は、とある勢力と手を結ぶことにした。……さあ、入ってきて」
その言葉の後、建て付けの悪いドアが開いて、ソーニャとユリウスが部屋に入ってきた。後には、フレドリカ、ライラ、ヴェロニカ、ヨルディスも続く。彼らの姿を目にした騎士団のメンバーから、すぐに怒声が飛んできた。
「何だ、魔女と偽聖女じゃないか! 何しに来やがった!」
「フ、フレドリカ嬢!? どうして……」
「臨時団長、これはどういうことなのですか!?」
「まあ、とりあえず彼らの話を聞いてみてちょうだい」
オーセにたしなめられ、団員たちは一度口をつぐんだ。彼女もなかなか人望のある人物らしい。
ソーニャたちは団員たちの前に立った。目を上げると、見知った顔が並んでいた。かつてともに訓練に明け暮れ、談笑し、競い合った仲の人々が、一斉に彼女に目を向けている。彼らの表情は様々だ。不審そうな顔つきの者や、ばつの悪そうな者、驚きを隠せない者。しかし、ソーニャを歓迎する者はいないようだった。オリヴェルやヒルダの姿もあったが、二人は不安そうな顔をしている。
ユリウスに背を押され、ソーニャは一歩前に進み出た。そして、ごくりと唾を飲み込み、口を開く。
「……ソーニャ・ルンドグレーンだ。久しいな、皆」
努めて笑顔を心がけたが、やはりどうしても顔が引きつってしまう。ソーニャとしても、昔の仲間であるとはいえ、処刑されかけた時に庇ってくれなかったという恨みはあった。もっとも、騎士団の人々は聖光教を篤く信仰していたため、異端とされたソーニャを助けようという発想はなかったのだろうが。
「単刀直入に言おう。私は、この国をラストヴァリアの手から守りたい。エルイーネは、他ならぬエルイーネ人自身の手によって治められるべきだと考えているのだ。そして、私も貴殿たちと同じく、エルイーネで育った人間だ。この国を思う気持ちは、貴殿たちと何も変わらない。ただ、少し外見上の特徴などに違いがあるだけだ。……私たち『魔女』には、特殊な力がある。私たちはそれを、故郷を守るために使うつもりだ。決して悪用したりはしない。今は非常時だ。国の中でいがみ合っている場合ではない。ここは私たちを信じて、手を取り合わないか?」
騎士団の人々は、ソーニャの話を聞いて、互いに顔を見合わせた。そして、何やらひそひそと話している。
そのうちに、団員の一人が声を上げた。
「そんなことを言って、魔女はこの国を乗っ取るつもりじゃないのか!? 恐ろしい力で我々を支配するつもりかもしれない! 臨時団長、本当にこの者たちと手を結ぶつもりですか? 考え直した方がいいです!」
そうだそうだ、と皆が追従する。やがてほぼ全員が、魔女は出て行け、と大合唱を始めた。
「……っ」
ソーニャは下を向き、顔を歪めた。聖光教が事実上崩壊したとはいえ、「魔女」への恐怖心はまだ根強く残っているらしい。
すると、唐突に甲高い大声が響き渡った。
「わたしは、ソーニャちゃんを信じたい!」
皆の視線が、一斉に声の主の方に向く。
叫んだのは、ヒルダであった。彼女はぐっと拳を握りしめていたが、その手はぶるぶると震えていた。一瞬にして静かになった場で、ヒルダはぽつりぽつりと話す。
「……ソーニャちゃんは、すごくまっすぐで、真面目で、いつもこの国に尽くしたいって言っていました。この国を守るために、一生懸命鍛練に励んでいました。それはみんなも見ていたでしょう?」
ヒルダは辺りを見回し、同意を求めるような視線を送った。何も言わない周囲の人々にため息をつきながら、ヒルダは続ける。
「ソーニャちゃんが魔女であろうがなかろうが、彼女が国を守りたいっていう気持ちには変わりありません。それに……ソーニャちゃんが言うように、今は緊急時です。魔女と争っていたら、ラストヴァリアにつけ込まれてしまいます! ……魔女の皆さんも、エルイーネを大事に思っていることは私たちと同じだと思います。そうなんでしょう、皆様?」
ヒルダの問いかけに対し、ライラ、ヴェロニカ、ヨルディスは揃って頷いた。そして、ヴェロニカが口を開いた。
「私たちとしても、我々の先祖を迫害し、辺境に追いやったあなた方の先祖には並々ならぬ恨みがあります。あなたたちと手を組むなんて、本当なら願い下げですわ。でも、ラストヴァリアに降伏するのも癪ですからね」
「……は? 『先祖を迫害』って、何だ? 何を言っている?」
すぐさま、場がざわめいた。そのざわめきは瞬く間に大きくなり、伝播していく。すると、フレドリカが一歩前に進み出て、ソーニャの隣に陣取った。
「今から私が説明するわ」
フレドリカの凛とした声が、騒ぎの中で不思議なほど、よく響いた。
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