第6章 再起

第46話 諦め

 ラストヴァリア軍はエルイーネ王国内に進駐し、各地に広がって占領の動きを活発化させ始めていた。魔法という、エルイーネ人にとっては未知の力を背景に、人々を屈服させようとしていたのである。多くのエルイーネの人々は聖光教という心の拠り所に裏切られたショックから、無気力になっていた。しかし、一部の人々は、諦めが悪いようで、隙あらばラストヴァリア軍を追い払おうと、夜に乗じて彼らの拠点を襲ったり、敵軍の兵士と見るや石を投げたりしていた。


 ソーニャたちはそんな街の中を歩いていた。人々はユリウスの姿を見て、「偽聖女! よく堂々と街中を歩けるな!」などと心ない言葉をかけてきた。聖女が男性だったという噂は王国中に瞬く間に広まったようで、ユリウスは今や民衆を欺いてきた敵と見なされていたのである。一方、人々はソーニャたち「魔女」に対しては、どこか気まずそうな、遠巻きにするような態度を見せていた。ラストヴァリア軍と同じ力を持つ彼女たちを恐れているのかもしれない。


 投げつけられた石を受け止め、しげしげと眺めながらユリウスは言う。


「へっ、分かっちゃいたけど、すげえ目で見られてるな、俺。これを味方につけんのは骨が折れそうだぜ」


 ソーニャはユリウスの隣を歩きながら、言葉を返す。


「だが、やらねばならぬことだろう。……それにしても、人々の聖光教への信仰心は並大抵のものではなかったようだな。皆、すっかり意気消沈している。ラストヴァリアへの抵抗を諦めた者も多い」

「中には、教会を焼き討ちしたり、聖職者を襲撃したりする奴らもいるらしいな。聖光教は急速に信用を失ってる。ま、それ自体は俺にとっちゃ喜ばしいことなんだけどな」

「いや、貴殿とて聖職者であったのだから、命を狙われる可能性は十分にあるだろう」

「もう狙われてるよ。石を投げられたのがその証拠だ。……けど、ここで折れるわけにはいかねえよな」

「ユリウス殿……」


 ソーニャは思わず足を止めた。そして、ユリウスの表情を窺う。彼は不敵に笑っていた。


「誰に何と言われようが、どう思われようが、俺がエルイーネの人たちをどうにかして救ってやりてえと思ってるのは事実だ。ソーニャ、騎士団本部に行こうぜ。どんだけ人数が残ってるかは分かんねえけど、そいつらを引き込めれば、合法的にラストヴァリアに抵抗できるはずだ」

「だが、彼らにどの程度、抗う意志が残っているか……。それに、私たちに賛同してもらえる保証もない」

「おいおい、もういい加減に弱気になるのやめろよ。とにかく行動を起こさねえことには始まらねえからな。みんな、行くぞ!」

「ユリウス殿! ま、待ってくれ!」


 ユリウスに先導される形で、ソーニャたちは騎士団本部へと向かった。



◇◇◇



 エルイーネ王国騎士団の構成員たちは、荒廃した街中で、人々の救助や治安の維持に当たっていた。その中で、ラストヴァリア軍に頭を下げざるを得ない場面も多々あり、それを内心不服に思う者もいた。しかし、多くの騎士たちは、戦意を失っており、ただ黙々と自分に課せられた務めをこなしていた。


 どうにか生き残っていたオリヴェルやヒルダも、敗北の事実を受け入れていた者たちだった。二人は瓦礫の山を片づけながら、ぽつりぽつりと会話を交わす。


「……オリヴェルさま。わたしたちは……この国は、いったいどうなってしまうのでしょう? ラストヴァリア軍のいいようにされてしまうのでしょうか?」

「……分からない。だけど噂じゃ、あっちの人たちはあの妙な術で、天気とかの自然から人の心まで、自在に操れるんだとか」

「ええ!? だったらもう、やりたい放題じゃないですか!」

「うん……あくまで噂だから、誇張されている可能性はもちろんあるけど、目の前で炎や水を出すのを見せられたらね……。それに、こっちは団長を失ってボロボロだし、聖女様が男だったっていうことで、聖光教への信用もガタ落ちだ。みんな、何を信じていいのか分からなくなってる」

「……わたしたちにできることは?」

「今のところは、戦いの後始末ぐらいだろうね。国王様が逃げてしまったから、騎士団がその尻拭いをしなくちゃいけないんだろうし、やることは山積みだよ」


 ヒルダは大きなため息をついた。せっかく戦争を生き延びたものの、このような状況ではオリヴェルに思いを告白している場合ではない。自分や他の騎士団員の今後のことを考えると、非常に気が重かった。


 すると、遠くの方から若い騎士が走ってきた。「伝令ー!」と叫んでいる。どうしたのかと問えば、緊急召集がかかったのだという。しかし、何が起きたのかは分からなかった。


「いよいよこの国も、ラストヴァリアの支配下に置かれるのかもね」

「そんな……」


 そのような会話をしながら、オリヴェルとヒルダは騎士団本部へと帰った。



◇◇◇


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