第5章 戦争開始

第37話 破られた結界

 その後もソーニャとユリウスは訓練に精を出した。ソーニャは風を操る魔法の他、水や植物など、様々な属性の魔法を学んだ。中には空間を操る魔法もあり、自分と相手の位置を入れ替える練習では、誤って数キロメートル先の家と自分自身を標的にしてしまい、家主に謝罪することになった。家主は、未来の巫王様のなさったことですから良いですよ、と快く許してはくれたが。


 一方のユリウスは、かなり弓に慣れてきて、今度は手裏剣に似た鉄製の投擲武器であるシャーヴを扱う練習をしていた。これにも魔力が込められていて、シャーヴが刺さった場所からは炎が出たり、毒が染み出したりしていた。ユリウスは肩が強く、コントロールも良いため、練習を始めてからそう経たずに、狙った場所に命中させられるようになった。


「だが、こいつが役に立つ時は、あんまり来てほしくはねえかもな。それは、戦うっつうことだもんな」


 ユリウスはシャーヴの刃を見ながら、そうこぼした。


「それはそうね。でも、ラストヴァリアは今にもエルイーネに攻め込んできそうだし、あっちにも浄者がいることを考えると、この里の結界は破られてしまう可能性があるわ。話して分かり合えるのが一番いいけど、そうはいかないこともあるのが世の常だから、有事に備えておくのに越したことはないわよ」

「はー、ったく、物騒な話だぜ。戦争なんて、人死にばっかり増えるだけで、瓦礫と怒りと虚しさぐれえしか残んねえっつうのによお」


 ユリウスがため息混じりに呟いた、その時である。


「長老、大変です! 何者かに結界が突破されました!」


 悲鳴のような声が轟いた。ソーニャ、ユリウス、カリーナが声の主の方を見ると、アンナが息を切らして立っていた。カリーナは落ち着いた声色で、彼女に尋ねる。


「アンナ。それは、誰からの報告?」

「見回りをしていた者からです。侵入者は、一様に黒い服に身を包んだ軍団で、七角形が描かれた旗を掲げていたと!」

「七角形……間違いないわ。ラストヴァリアの軍勢ね」

「ラストヴァリアの!?」


 ソーニャは叫んでいた。まさかこのタイミングで、とも思ったが、そもそもソーニャが異端者として処刑されかける前からエルイーネとラストヴァリアの関係は悪化していたのだから、いつ戦争になってもおかしくはなかったのである。ただ戸惑うソーニャとは対照的に、カリーナは冷静に状況を分析する。


「攻撃はされていないの?」

「はい、今のところは。ですが、相手は武器を携えており、敵意がないわけではないと思われます」

「なるほど。はあ、面倒だけど仕方ないわね。わたしが行ってくるわ。なるべく穏便に済ませるように努めるけど、場合によっては……分かるわね?」

「はい。既に里の皆には、長老の家周辺に集合し、待機するよう伝えてあります」

「じゃあいいわ。ソーニャさん、ユリウスさん。もしかしたら、戦闘になるかもしれない。その時は、訓練の成果を生かして、一緒に戦ってちょうだい」


 カリーナの要請に、ユリウスはもちろん、と胸を叩いたが、ソーニャは眉をひそめ、俯いた。そんな彼女に、カリーナは詰め寄る。


「何? わたしたちに味方する気がないの?」

「いや、決してそうではない。私は……足を引っ張ってしまうと思う。まだ力の制御が満足にできていないから……」

「そんなこと言ったって、相手は待っちゃくれないのよ。いいから、あなたも覚悟を決めなさい。それに、剣を使えば、今のあなただってそれなりに戦力にはなると思うわ。だから、あまり自分を卑下しないで」

「カリーナ殿……承知した。私も、浄者の端くれとして、そして巫王の血を引く者として、この里の平穏を守るために力を尽くそう」


 ソーニャは意を決して前を向いた。


「いい顔になったわね。それじゃ、行くわよ。ついてきて」

「え、俺たちも行くんすか?」

「ええ。あなたたちには、わたしの護衛を務めてもらうわ」

「いや、ソーニャはともかく、俺は魔法使えないっすよ?」

「あなたは頭が切れるようだから、何か役に立つかもしれないと思って」


 カリーナの言葉に、ユリウスは片眉を上げてみせた。


「へえ。あんた随分、俺のこと、高く買ってくれてるみたいっすね。んじゃ、その期待に応えられるように頑張るとしますか」


 そうしてソーニャたち一行は、ラストヴァリアの軍勢と相対することになったのであった。

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