第28話 巫王の血筋

 ソーニャはそっと、自分の角に触れた。そして、目を閉じ、一切の余計な感情を捨て去り、集中する。瞑想するのに似ていた。


 すると、何かにぐっと引っ張られるような感覚を覚え、思わず目を開けそうになったが、何とか堪えた。それに逆らわず、ソーニャは身を委ねる。


 ソーニャはそのまま、意識の奥底に引きずり込まれていった。断片的な記憶のようなものが頭をよぎる。その中には、心当たりのない記憶もあった。知らない女性に満面の笑みを向けられていたり、かと思えば聖職者と思しき人々に追われていたりした。


「……誰、だ? これは……私の記憶なのか?」


 やがて、ソーニャの頭に映像が浮かんだ。それは、次々と移り変わる季節の中、立ち尽くしていると、空から何か眩しいものが二つ落ちてきて、それらを捕まえるというものだった。捕まえたものの正体を確かめようとしたところで、映像はぶつんと途切れた。


 ソーニャはゆっくりと目を開けた。子どもたちが、興味津々といった様子で、ソーニャの顔を覗き込んでいる。


「お姉ちゃん、どうだった? 何が見えた?」


 今見えたものを、ソーニャは簡潔に説明した。すると、話を聞いていた子どもたちの顔に、見る間に驚愕の表情が浮かんだ。そして、彼女たちはソーニャの様子を窺いながらひそひそと話し始める。


「そ、それ……もしかして」

「絶対そうだよ。だって、ママが言ってた通りだもん」

「じゃあ、この人が……?」


 ひとしきり話し込んだ後、子どもたちはソーニャに向き直った。そして、いきなり深く頭を下げた。


「なっ……どうしたというのだ、いったい?」


 困惑するソーニャをよそに、子どもたちのうちの一人が声を発する。


「大変長らくお待ち申し上げておりました、!」

「は……?」


 ソーニャは目をぱちくりさせることしかできなかった。









 ソーニャは子どもたちの家に招き入れられ、座り心地の良い椅子に座らされて、紅茶と茶菓子でもてなされた。そして、噂を聞きつけたと思しき大人たちが、彼女の周りに集まってきた。


「この度は、娘たちが失礼な真似を……。大変申し訳ありません。お詫びと言ってはなんですが、どうぞおくつろぎください」


 一人の若い女性が、深々と頭を下げる。ソーニャは慌てて、頭を上げてもらった。そして、気になっていたことを問う。


「娘御たちは、私を巫王と呼んでいた。それは、いったいどういうことなのだ? なぜ、私が巫王だと……?」

「あなたは、瞑想を通して、巡る季節の中で、太陽と月をその手に収めるという映像をご覧になったのでしょう? それは、代々巫王の血脈にのみ受け継がれるものです。先代の巫王も、それを見たとおっしゃっていました」

「先代……。それは、つまり……」


 ソーニャはごくりと唾を飲んだ。女性は、真剣な面持ちで言う。


「あなたの母上ということでしょう」

「……」


 ソーニャは言葉を失った。自分は孤児であり、家族などいないと思っていたのだが、ここに来て、突然母親の話を聞かされ、戸惑いが生まれたのである。


「母……。その人は、もう亡くなっているのだろう?」

「ええ、そう伺っております。私も詳しくは知らないのですが、十数年前に突然里を出て行ったきり、戻ってこなかったと」

「そう、か……」

「あ、そうだ。長老にはお会いになりましたか? あのお方なら、その辺りの事情もご存知のはずですけど」


 女性に問われ、ソーニャは言葉に詰まった。ややあって、彼女は話し始める。


「……会いには行った。だが、拒絶されてしまったのだ。自分では力になれないだろうと」

「ああ、そうですか……。でも、やっぱり、長老に直接お話を伺うのが一番良いと思います。私たちも一緒に参りましょうか? 彼女を説得するのをお手伝いしますよ」

「ありがとう。だが、気持ちだけでいい。……真実を知りたいという、私の気持ちをきちんと伝えたいのだ」

「……分かりました。ですが、何かあったらいつでもおっしゃってくださいね。巫王様」

「まだ、その呼び方は慣れない。ソーニャと呼んでくれ」

「あ、はい。ソーニャ様」


 ソーニャはその場に集まった人々とひとしきり話した後、別れを告げて再び里巡りへと出発した。


 その様子をじっと見つめる目があったことに、彼女は気づいていなかった。

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