第20話 驚きの再会
アンナに教えられた道を辿って、ソーニャとユリウスは長老の住むという家を目指して歩いていた。その道中で、何人かの里の人々と出会ったが、皆不審そうな眼差しを向けてきた。
「……警戒、されているようだな」
「ま、しゃあねえよ。特に俺は男だし、角も生えてねえしな。女装はしてるけどよ」
手を頭の後ろで組み、呑気にそう言うユリウスを、ソーニャは心配そうな目で見る。
「この里に男性はいないということだったな。ならば、男性である貴殿は、必然的に聖光教信者ということになってしまうのではないか? 魔女たちは、聖光教に良い印象を抱いているわけがないし、貴殿を目の敵にするかもしれん」
「そういうあんただって、ちょっと前まで聖光教の敬虔な信者だったじゃねえか。そういう事情が明らかになれば、あんたも歓迎はされねえだろうよ」
「……それは、そうかもしれないが」
目を伏せるソーニャの肩を、ユリウスがバシンと叩いた。その顔には笑みが浮かんでいる。
「な、何をするのだ」
「せっかく着替えてさっぱりしたんだ。もうちょっと嬉しそうな顔したらどうなんだ?」
「……だが、問題が解決したわけではないだろう」
「しただろ。とりあえず寝床は確保できたんだから」
「根本的な問題はまだ残っているではないか」
「あ? 逃げ続けてるっつう問題? それはしょうがねえよ。とにかく今は、長老んとこ行こうぜ……ん?」
その時ユリウスがふと足を止めた。ソーニャも止まり、彼の視線の先を見る。そこには、鬱蒼と茂った森があり、さらにその入り口には石でできた門のようなものがあった。門には蔦が絡みついている。
「これは……?」
「なんか、遺跡みてえだな。ちょっくら調べてみっか」
ユリウスはいそいそと、門の方に向かって歩き出した。それを追って、ソーニャも急ぎ足で門へと向かった。
門の中に足を踏み入れると、正面には崩れかけた石造りの宮殿のような建物があった。その近くには、斜めに傾いた塔のようなものがある。いずれも、内側から巨木が生えており、それに押しつぶされる格好になっていた。
「おお……なんか、雰囲気あるなぁ。古代遺跡みてえだ」
「みたい、ではなく、本当にそうなのではないか?」
「ま、そーかもな。……ん?」
ユリウスは足に何かが当たったのを感じ、足元を見た。すると、石版の欠片のようなものが落ちていた。彼はそれを拾い上げ、まじまじと観察する。何か文字のようなものが刻まれていたが、経年劣化しているほか、どうやら古語で書かれているらしく、どうあがいてもユリウスには解読できそうになかった。
「ユリウス殿、どうした? 何かあったのか?」
「ああ。なんか石版みてえなもん見つけた。文字か記号が刻まれてるようなんだが、俺には読めねえ。ソーニャ、読めるか?」
手渡された石版を見つめ、ソーニャはなんとか解読しようと努力したが、やはり難しかった。首を横に振るソーニャに、ユリウスはため息をつく。
「はあ、やっぱ無理か。なんか分かるかもしれねえと思ったんだけどな」
「……『アン=ディオーナ歴三百六十八年、七月六日。カタリーナの長女ブリットが、王位に就く。国を挙げて祝い、空を炎と水が彩った』」
その時突然、背後から女性の声がした。ソーニャとユリウスが驚いて振り返ると、そこには見知った顔が立っていた。
「……フレドリカ殿!? なぜ、ここに……」
「この国の真の歴史を調べに来たのよ。ソーニャさん、あなたこそどうしてこんなところにいるの? それに、その角……どういうことなの? あと、隣の人。あなたは誰? 随分ソーニャさんと親しく話しているようだけど」
突如現れたフレドリカに質問攻めにされ、ソーニャは狼狽えた。しかし、ユリウスの方がもっと驚いていた。
「あ、あんたこそ誰だ? つーか、あんた、角ねえな。ここの人間……というか魔女じゃねえのか?」
お互いに誰何し合うだけでは埒が明かないので、ソーニャが間に割って入った。
「ユリウス殿。こちらは、私の知り合いのフレドリカ殿だ。レーヴ家のご令嬢だ。フレドリカ殿、こちらは、その……ええと……」
「俺はユリウス。聖女だ」
「……?」
フレドリカは眉間にしわを寄せて首を傾げた。当然の反応である。ソーニャは簡潔に経緯を説明した。
「じゃあ、私たちが今まで聖女ユリア様だと思ってたのは、男の人だったのね」
やけに平然としているフレドリカの態度に疑問を持ったのか。ユリウスが彼女に尋ねる。
「おい、あんた、もっとなんかねえのか?」
「『なんか』って、具体的には何?」
「だから、驚くとか」
「別に。教会は何か隠してるって何となく思ってたから、今更それぐらいのことで驚いたりなんかしないわ」
「……へえ。あんた、面白え人だな」
ユリウスはニヤリと笑った。そして、手を差し出す。
「あんたとは気が合いそうだ。よろしく頼むぜ」
「ええ、よろしく」
フレドリカはユリウスの手を取った。そして、軽く握手を交わした。
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