第12話 嵐の前の静けさ
ユリウスはハンスに、平静な口調で問いかけた。
「処刑、とは、穏やかではありませんね。そもそも、その魔女とやらの出現と、政治的緊張の高まりを結びつけて考えるのは、少々短絡的ではありませんか?」
「おや、私に反論する気か? ユリウス」
ユリウスの耳元から顔を離し、ハンスは片眉を上げて真正面から彼を見つめた。
「いえ、滅相もございません」
「そうか、ならいい」
「それで、処刑と言いますが、具体的にはどうするのですか?」
「その者を、火刑に処すのだ。お前には、その時に火をつけてもらいたい」
「そうですか。ですが、なぜ私にその役を?」
「聖女たるお前が直々に手を下すことで、罪人には絶望感を与えられるし、見物人たちには聖光教の正しさをより知らしめることができるだろう、と考えてのことだ」
「ですが、そうすると、私は人々の前に姿を現さなければならなくなりますが」
ハンスは顎に手をやってしばし考えていたが、すぐににこりと微笑んだ。
「心配はいらない。お前の前には、仕切りを立てる。それに、万一姿が見えたとしても、お前はベールを被っているから、顔までは見えないだろう」
「……」
ユリウスは思案した。とはいえ、もはや彼に断る選択肢など残されてはいなかった。
「……分かりました。その役、引き受けましょう。ところで、その魔女の血を引く者とは、いったい誰なのですか?」
「それは、お前には関係のない話だ。お前は黙って、火をつければいい。……お祈りの邪魔をして悪かった。これからも務めに励むのだぞ、ユリア」
それだけ言い残して、ハンスは大聖堂を後にした。
「……処刑、か。ったく、適当な理由つけて面倒な役回りを押しつけやがって、あのデブ」
ユリウスは舌打ちをして、再び神像の前に跪いた。
◇◇◇
ソーニャはオリヴェルやヒルダたちとともに、日々の鍛錬に邁進していた。毎日筋力トレーニングや走り込みをして、素振り、実戦形式の手合わせ等を行っており、どれも手を抜かず取り組んだ。
オリヴェルとヒルダが手合わせをしているところを、ソーニャは真剣な目をして見ていた。二人とも、なかなか良い腕をしているため、勝負は互角であった。
「ヒルダ、やるじゃないか!」
「オリヴェルさまこそ、剣筋がますます鋭くなっていますよ! 流石ですね!」
ソーニャの目にも、二人の剣の腕はかなり上達しているのが見て取れた。これなら、いくら得体の知れない敵が相手でも、引けを取ることはないだろうと彼女は思った。
と、そこに、団長のヨルゲンが姿を現した。オリヴェルとヒルダの手合わせを見て、彼は満足そうに微笑んだ。
「おお、励んでいるな。しかも、かなりレベルが高い。君たちは騎士団の期待の星だな」
「団長! いらしていたのですね」
ヨルゲンの姿を認めると、オリヴェルとヒルダは手合わせをやめ、揃って敬礼した。言わずもがな、ソーニャも最敬礼をしている。
「ああ、続けてくれて構わない。……最近、騎士たちの士気が上がっているのが身に染みて分かる。ソーニャ、君のおかげだ」
「私の、ですか?」
身に覚えがなく、ソーニャは自分を指差して首を傾げた。ヨルゲンは笑って続ける。
「君は、特に熱心に鍛錬をしているからな。それだけ、君の愛国の志が強いということだろう。皆、君に倣って、リーアス神の恩寵に応えるべく、日々奮闘しているようだ」
「……そう、ですか。私はただ、自分にできることをしているだけですが」
実際のところ、ソーニャが鍛錬に励んでいるのは、心の中の疑念や不安をごまかすために過ぎなかったが、騎士団の皆には好意的に受け取られているようだった。
「謙遜は騎士の美徳と言われるが、ソーニャ、君はもう少し自信を持っても良いのだぞ?」
「いえ、私は大した人間ではございませんので」
「そうか。まったく、君は本当にエルイーネ王国騎士の鑑だな。では、これからも頑張ってくれ。期待しているぞ」
「……はい」
ヨルゲンは豪快に笑いながら、他の騎士たちの鍛錬を見に行った。その背中を見送りながら、ソーニャは、
「……私は、決してあのように褒められるべき者ではない。あろうことか、教会に対して疑いの心を持ってしまっているのだから……」
と、誰にも聞かれないように呟いた。
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