僕らは、みんな。

呪文堂

僕らは、みんな。

 軽い。

 まるで、羽根が生えたみたいだ。

 行ける。

 どこまでも突っ走れそうだ。

 …いや。

 物凄い勢いで、過ぎ去る景色。

 僕は、飛んでいるらしい。

 素晴らしい速度で、飛翔している。


 疼くような腰の痛みも。

 軋むような膝の痛みも。

 若い頃から付きまとう悪友みたいな頭痛すらも、水で流したように消えてしまった。

 …軽い。全身が軽い。行ける。

 これならば、行ける。


 そうか。

 これは、初めてじゃない。

 得た今、気づいた。

 常々。

 常々、あったんだ。


 …子供の頃。

 崩れそうな世界から脱しようと、僕は必死で探していた。それは絵本に描かれていた。その粉を身に受けたなら、空だって飛べる。夢見るとかじゃない。文字通り必死だった。大樹の陰。橋の下。小川の水面みなも

 見つけねば、飛ぶことができない。

 飛ばねば、死ぬ。

 世界に、喰われる。

 永遠に、死に続ける。


 でも。見つけることが出来なかった。  

 心は硬くなり、重くなっていった。重くなり過ぎたからだろうか、僕はいつしか、探すのを止めた。


 今なら、分かる。居たんだ。

 それは初めから、居た。

 魚が、水を探して周るようなもの。

 それは、初めから居たんだ。

 日々に消えていったが、日々に現れた。

 いつだって、僕を取り巻いてくれていた。

 僕は忘れていただけで。

 ちゃんと、僕は信じていたらしい。


 解けていく。

 留まるものたちが、手を振っている。

 ここまで運んでくれて、ありがとう。

 また、タッグを組もうな!


 ぽろぽろと零れながら、それでも僕らは進んでいく。素晴らしい速度で飛翔する。

 不合理で理不尽で無情で。確かに世界には理解不能なモノが渦巻いていた。

 でも僕は。僕らは、ちゃんと進んできた。

 ご覧よ、この素晴らしい速度を。

 周囲は光の矢となり後方へと飛んでいく。

 しっかりと前だけを向いて飛ぶ。

 この速度が。無駄なんて僕は思わない。

 山吹色の光を目指して、僕らは青い矢となって飛んでいく。


 どくんどくんと心強く波打っていた音が、渾身の一振りを放った後に止まった。

 一時も休むことなく働いていた彼らは、いま解放されて休息の地へと分かれていく。

 カーテンコールが鳴り始めた。いつ聞いても心を躍らす素敵な響きだ。さあ、最後の一滴まで、振り絞って進もう!


 霞んでいく。

 僕は、そろそろらしい。

 先ゆく者たちに手を振った。

 ここまで運んでくれて、ありがとう。

 また、タッグを組もうな!


 広がっていく。

 でもまだ、羽撃いている。

 山吹色の光を目指して。

 素晴らしい速度で。

 遥かな銀の世界で。

 青い矢になって。





 僕らは、飛べる。

 僕らは、進む。

 …何故なら、僕らは。



 僕らはみんな、奇跡の雫妖精だから

 僕らはみんな世界はすべて、生きている。





(おしまい) 

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僕らは、みんな。 呪文堂 @jyumondou

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