第5話 アンニュイな日々
先輩との打ち合わせは8月26日だったので締め切りの9月20日までにまだ4週間弱あった。本来なら16ページのマンガを制作するので時間が無いと焦るところ
だが今回は心に余裕があった、なぜならストーリーを考えなくていいからだ。
本当に気が楽だった。しかも絵コンテは既に出来ている。まあ、課題があるとすればキャラクターデザインだが、それこそ私が唯一マンガ制作の中で一番の得意分野だった。その逆で一番の苦手がストーリーの構成だった。小学生の頃からマンガ家に
なるのが夢だったが、ストーリーを作るのに時間がかかり、そしてつまらなかった。特に伏線を張るのが出来なくてサプライズがないストレートな話になっていた。
キャラクターデザインや絵の構成・背景の構図を考えるのは得意で作業自体は好きだった。大人になるにつれ、絵の上手い人はたくさんいるがストーリーが面白い人がプロになる、いや面白いストーリーを思いつく人がプロになると分かったので高校、大学とあくまでの趣味として制作していた。理由は絵の描くスキルをなぜか維持したいいう欲望がそうさせていた。8月末までにキャラクターデザインができれば、ほぼほぼ勝算ありとこの時には考えていた。そうすると人間とは不思議なものでついつい
次のステップを考えてしまう。私の場合は、、、、もちろん入賞後のことからだった。流石に大賞は無理だし、現実的ではなく、論理的ではないだろう。多分次の
ランクで入選位が妥当だなと。。。そうすると賞金は100万円、先輩と折半なので50万かあと思ったら次の瞬間に使い道について考えていた。以外とあまり
無いなあが第一の感想だった。車も買えないことはないけど、中古しか無理だし、
出来たらパァーっと使いたいと考えていた。
テレビはあるし、旅行は時間が取れないし、しいて上げるとアクセサリーかなあ。でもあんまり高級過ぎるのを身につけるのは緊張するというか、普段使いには気を
遣って使えないなあ。。。ということは、家に保管する→ほとんど使わない→勿体ないと思っていたら、ふと私の会社の所長が飲み会でみんなの前でお金の話をしていたことを思い出した。『お金は活きた使い方をしないと意味がないよ。営業だったら接待でちょくちょく安い居酒屋へ行くより、ここ一番にお客さんのキーパーソンを良いとこに連れて行って成果につなげる。他には英会話やジムに通って自分に投資する。そうするとそれらが自分に戻ってきて仕事に活かせたり、健康に気を付けることによって精神が安定して結果仕事に良い影響を与えるしもちろん病院代もかからない。
まあ大きいテレビ買って娯楽にお金使うのは悪くはないけどリターンがないだろ。
だからみんは若いうちに活きたお金の使い方はして欲しい。』
もう私は社会人5年目だ、大学生の頃とは違う今の自分は言うなれば
『ニュー高橋カノン』だ、マシンを買おう!そうマンガ用にパソコンと周辺機器に投資することが所長の言ってた自分に投資することだと認識した瞬間にアマゾンで検索していた。プロ仕様とは言わないがCPUはなるべく最新、メモリ16GBで憧れの液タブにして、ソフトも最新と調べていたら、総額25万円位になっていた。考えたら、今回の作品もニューマシンで制作すれば完成度は高いし、困った時にCTRL+Zもある、今後もどうせ使うのでこのタイミングで買うべきかと考えた。今までの私だったら、『賞金が50万が入るから大丈夫だ。』と安易に判断していただろう。でも社会人5年生でそれなりの経験をしてきました。リスクヘッジは社会人の常識だ。もし、アクシデントがあって応募できなくなり賞金が入らなかったら。(この時点では落選するイメージはなかった。)6回の分割にしてしかも12月のボーナスがあれば、、、、、、
乗り切れると思った瞬間、ポチった。そう『ニュー高橋カノンは伊達じゃない!!』
次に考えたのが入選後のことだった。(*この時点では絵コンテまでしかできてません。)
先輩は連載5回位続けばこのフォーマットはゴールデンパターンに持ち込めるといってた。イコール長期連載→単行本化→アニメ化。問題はどのタイミングで仕事を辞めるかだ。週刊か月刊か隔週かで違うが一番の難題であるストーリー作成が必要ないのでギリギリまで仕事を続けられるなあと考えた。もちろん社会人なので収入が安定してからが最低条件なのだがプロとして作品のクオリティには責任を持ちたい。
(*この時点では絵コンテまでしかできてません。)結論は単行本化された印税が
入った時点で辞めることに決定してこの日は終わった。
問題が発生した。先月にアマゾンプライムに登録し、パソコンかタブレット端末で
映画やオリジナル番組、ドラマなどを視聴していたがメールにてアマゾン Fire TV Stickの広告が送られてきた。確かにテレビの大きい画面で観れるのがすごい魅力的で値段も¥4980と手頃な価格で購入を迷っていた。その時はまあすぐに買わなくていいかなあと思っていた。すると先週突然、アマゾンのセール期間で
Fire TV Stickが¥3980の表記を見た瞬間、運命感じてた。気が付くと、、、、ポチってしまいそれが最悪のタイミングで届いた。
Fire TV Stickを買ったことは事態は問題ではない。アマゾンプライムに加入した時から気になっていたのがプリズンブレークだ。海外ドラマにハマったきっかけになったのは、昔実家がスカパーに加入していて私も楽しんでいた。加入の
きっかけは私が海外サッカーを見たいので為両親に懇願し、最終的に父に競馬番組が月曜から観れるのと母には夜のヒットスタジオが再放送されている事実を告げて契約に至った。そのスカパーである時、番組表を見ていると『一気見サンデー』と銘打って海外ドラマの第1話から第6話までを一気に放送するのをやっていた。何気なく観たのがプリズンブレークだった。最初はタイトルで想像した脱獄劇だと思ったが伏線の張り方がハンパなく、また各キャラクターの設定が絶妙だった為、一気見サンデーを一気してしまった。ただ、のみならず翌日続きをDVDレンタルする暴挙に出てしまった。まあこれでも1日我慢した方だった。ここから旅が始まった。プリズンブレークの当時あった、全シリーズを制覇すると次に『24』『ロスト』と当時の3代メジャーを撃破していった、『ロスト』は正直自分との闘いだった。ストーリーは面白かったがテンポが他の2作に比べ独特だった。その回の話のメインになるキャラクターは必ず過去への回想シーンが含まれるので同じく海外ドラマが好きな友人達の
多くはここで散ってしまった。私は、もう戻れないシーズンまで進んだのでなんとか自分を励ましながらゴール出来たと、ここまでは過去の微笑ましいエピソードなの
だが、実は一気見サンデーの時3話の途中から観始め為、プリズンブレイクの最初はどんな話かは気になっていた。ただわざわざレンタルDVDを借りるまでもないなあと思いここまできたのだが、Fire TV Stickをセットしテレビの大画面でアマゾンプライムを呼び出すと海外ドラマのカテゴリーに必ずプリズンブレイクがおすすめで表示さるのだった。せっかくFire TV Stickを買ったので
1話だけ観てみよう軽い気持ちでリモコンを押した。『無茶苦茶面白い!!』と思ったら、その日は5話まで鑑賞してまった。一気見サンデーの6話とはいかないが
あまりにもテンポが良かったので5話まで行ってしまった。明日休みだったらもっといってたなあと思いつつその日は明日仕事があるのでベッドに入った。寝ながら
スケジュールをイメージしていたら、パソコンの納期を思い出した。今週末に届くからそれまでにキャラクターデザインを完成させてれば、来週から制作が開始できると思ったらシーズン1が何話まであるかスマホでググってしまった。答えは22話だった。まあでも一度観たやつなのでそこまではハマらないだろうと思いながら眠りについた。
翌週の月曜日、キャラクターデザインの下書きを始めていた。先週はプリズンブレイクを観ていると途中であることを思い出した。そう、このプリズンブレイクのシーズン1と2はストーリーが繋がっているので最後まで観てしまうとオートマチックにシーズン2に突入してしまうことを。シーズン2といえばマホーンFBI捜査官が登場し、マイケル(主役)との頭脳戦を繰り広げる好きな展開の所だ。あえて言おう
『ニュー高橋カノンは伊達じゃない!!』シーズン1の17話で完全に断ち切った。これ以上進むと流石にヤバいのは分かっていたのと、ストーリーを徐々に思い出し
当初テンションより下がったので今回はストップできた。ただ、恐るべしアマゾンプライムとFire TV Stick!!
先輩からのキャラクターデザインについてのオーダーは『全体的にかわいい感じ』というザックリしたものだった。最初は楓ちゃんとマサトくんは2頭身にしようと思ったがもしアニメ化されたとしても、デザインがかわいい過ぎて幼児向けの番組に
なる可能性があるのでの妖怪ウォッチのケータくんのサイズにすることにした。
(*この時点では絵コンテまでしかできてません。)この2人はなんとかなるとして、一番の問題は路面ジャーくんだった。サイズ感が難しかった。参考になるのは最初に思いついたのが『きかんしゃトーマス』だったが、よくよく考えるとトーマスはリアルな電車のサイズ感をつかってるのであまり参考にならなかった。他に電車が出てくるアニメはないかと考えたが思いつかなかったので『電車 アニメ』ググって見たが赤ちゃん向けの踏切を説明YouTubeや『チャギントン』が検索結果で出たが要望していた内容ではなかった。うーん、困ったので気分転換に外に出ることにした。
折角なので会社に持っていく用のドリップコーヒーを買いにスーパーへ向かった。
ドリップコーヒーの銘柄は『匠が作ったドリップコーヒー』と決まっていたので陳列棚に直行した。他に何か必要なものが無いか探していたらお菓子コーナーにきていた。このスーパーにはなんと大阪名物の『満月ポン』が置いてあるのだ。丸形で醤油味のポン菓子なのだが特徴は、袋の中に丸形のせんべいが何枚も入っているのだが味にバラつきがあり、部分的にすごく濃い醤油味の箇所がありそこが抜群に旨いのだ。全体的に関西のお菓子メーカーなので薄味なのだが食べていると突然濃い醤油味の箇所に出くわした時に幸福感が味わえるのが醍醐味だ。当然この『満月ポン』は先輩からの受け売りだ。札幌ではあまり売ってるところは少なかったが、たまたま近所の
スーパーで見つけてからはここを利用するようになった。そして、このレギュラーアイテム達を買い物かごに入れた後、ふとお菓子コーナーを眺めると箱や袋にたくさんのアニメキャラクターがデザインされていた。『北海道レインボーズ』もいずれはこうなるのかと思った時(*この時点では絵コンテと一部のキャラクターデザインまでしかできてません。)アンパンマンのグミが目に入った。そう言えば確か
アンパンマンの中に出てくるキャラクターで電車っぽいのがいたようなと思いスマホで『アンパンマン キャラクター一覧』で検索すると「いた!」と思わず口走ってしまった。サイズ感がピッタリで車にトランスフォームした時はオープンカー仕様に
すればいいんだと浮かんだのですぐにアパートに戻り制作に取り掛かった。
それからは順調だった。キャラクターデザインは完了し作画に取り掛かっても
今回の為に購入したマシンが威力を発揮した。液タブは私には合っていた。直観的に描けるのがいい!!最高!!レイヤー移動に投げ縄をつかってちょちょいのチョイとストーリーを考えなくていいことが作画集中できスムーズに進んで行った。締切が
9月20日なので9月15日までに完成させて先輩に確認して貰おうと考えていた。
順調にマンガ制作は進んでいたのだが9月9日週に入り少しスケジュール的に
タイトになってきた。でも『ニュー高橋カノン』である私は焦らなかった。秘策が
あったからだ。社会人である私は時間が少し足りなかったので9月13日金曜日に
有給休暇を取ることにした。有給の大技を使い作業時間を増やし、先輩とはデータ
だと重いので紙に印刷したものを9月15日メール便で送る段取りになっていた。
先輩の所には遅くとも9月17日水曜日に到着するので手直しがあったとしても
20日金曜日の締め切りまでには間に合う計算だ。焦らなかったのは応募はアップロードなのでその日できるからだ。
有休を取った金曜日、朝10時に目覚めた。普段なら会社で仕事をしている時間帯だが昨日久しぶりに夜中の3時まで起きて作業に取り掛かっていた。大学生の時は夜更かしは当たり前の生活だったが、社会人5年目となると有り得ない。そんなことを
すると仕事に支障をきたすのと体が12時過ぎると眠くなってしまうので逆に
昨日は、コーヒープラス、エナジードリンクの2本飲みで何とか引っ張れた。
朝起きてからはいつものルーティンだ。1人暮らしも9年目なので慣れたものだ。冷凍庫から1膳サイズのタッパーを取出し、電子レンジで200wで3分温める。その間にお湯を沸かし、小さ目のどんぶりとお茶漬けのもとを用意する。ご飯は週末に5合を焚いて平日の朝食分をストックする。このルーティンは社会人1年目からものだった。今思えば大学生の頃は朝早く起きて出勤する会社員が務まるかなあと不安
だったが、1年目を過ぎた辺りから自然と起きれるようになっていた。みんなこの朝問題はこういう風に乗り越えてきたんだなあとその時思った。3年目からは、一応目覚ましはセットするが鳴る前にオートマチックに起きれるようになっていた。目覚ましは、保険と少し前目覚めた時に起きるまでのベッドでのアイドリング時間終了の合図に使っている。朝食を摂り歯を磨いた後、今日は一日中部屋にこもれる用買い出しに行くことにした。食糧品とドリップコーヒーはいつものスーパーでエナジードリンクときのこ山はドラックストアで購入しアパートに戻った。きのこの山は大粒バージョンが近くのドラックストアで発見してからついつい買ってしまうのが癖になっていた。
アパートに戻ると、入口の所で大家さんと若い男性が立っていた。私のアパートは
3階建てで真ん中階段があり、向かって右側が1LDKの単身用で左側が2LDKになっていて、独身者または家族向けとなっていた。私は右側の2階に住んでいて
大家さんは左側の1階に住んでいる。ここには大学生になってからなのでかれこれ9年目なる。私が初めての一人暮らしになるので両親が大家さんが同じ建屋に住んでるアパートを探してくれた。大家さんは当時60歳台の老夫婦で、3年前に旦那さんの方がお亡くなりになった。両親が私が初めての一人暮らしになることを最初に
説明してくれたおかげでよく声をかけてくれたり、果実や野菜をおすそ分けして
くれたりして大変ありがたかったし、何かあればすぐに相談できる人が近くに
いるのが心強かった。社会人となった今でもおすそ分けをしていただいているし、
最近は私の荷物の受け取りもお願いしている。これは一人暮らしの身には大変
ありがたかった。そんな大家さんが挨拶してきた。
「カノンちゃん、おはよう。今日は会社お休みなの?」
「はい、今日は有休が溜まってたので休みを取りました。」
「あっ、初めて会うわね。この子私の孫でまりなちゃん。帯広から来たの。北大生で今月から一緒に住むことになったの。前は違うとこに住んでたんだけど、」
「初めまして、『大橋まさと』といいます。宜しくお願い致します。」と大家さんの
会話を遮断しながら『あまりペラペラしゃべらないでね。』という視線を大家さんに向けていた。ユウトさんは、韓流アイドル風ででカッコいい感じだなあと思った瞬間思い出した。
「ひょっとして、鳥民でアルバイトしてませんか?」
「あっ、はい、働いてます。ひょっとして、お客様ですか?」
「ええ、2、3週間前に一度行きました、その時の店員さんに似てるなあと思ったのでつい確認したくなりました。すいません、自己紹介が遅れました。このアパートの201号室に住んでる高橋カノンと申します。会社があのお店の近くなので
じゃあ、また行かせてもらいます。」
「是非、お待ちしております。大体週4日入ってるのでもし見つけたら声掛けて下さいね。少しだったらサービスできると思います。」と笑顔で返してきた。
部屋に戻ると、『マサトくん』かどこかで聞いた名前だけど思いだせなかった。見た目はクールだけどしゃべると印象が変わってかわいい感じだなあと思いつつ、いつ頃鳥民に行けるかなあと漠然と考えながらパソコンの電源を入れた。
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