可愛い妖精さんを召喚して、一緒に暮らすぞ★ 「どうも、ゴブリンです」

初美陽一@10月18日に書籍発売です

現代ゴブリン同棲か……まあでも、理性的で良かったじゃない!(なっ!)

「なんで……どうして……ううっ……こ、こんなコトにぃ……!」


 マンションの自室で嘆きくずおれる青年の名は、ショージ。

 つい最近、高校を卒業し、この春から大学生として一人暮らしする予定……のだ、が。


 今、そんなショージの前には――がいた。

 大事なことなので、もう一度――だ、がいる。


 背丈は人間の男児ほど、頭骨が盛り上がったかのように大きく、けた胴体や手足とは不釣り合い。

 何より特徴的な、緑の肌グリーンスキン――現代日本にあるまじき、ゲームや映画のファンタジー世界から飛び出してきたかのような、この異相。


 もはやゴブリンとしか、形容しようがない――ただ衣服だけは、神官の纏うようなローブなのが、少しばかり意外だが。


 しかしショージには、関係ない。彼が嘆いている理由とは……。


「う、うう、どうしてこんなコトにっ……ひょんなコトから手に入れた〝一度だけ妖精を召喚できる魔法陣〟を半信半疑で試して……まさかのホンモノ。召喚発動時にはテンションだだ上がりで〝これから可愛い妖精さんと同棲生活か~ウフフ★〟と盛り上がっていたのに……こんなの、こんなの……詐欺じゃねぇかぁぁぁ!!」


『………………』


 誰にともなく一人で切々と説明する辺り、悲嘆と困惑の極みにあるのだろう。

 そういうことにしておくとして、そんなショージに思いがけずのは――


『まあそう気を落とさないでくださいよ、あにさん』


「ウッウオオオ喋ったァァァ!? いや普通に喋れるのかよ!?」


『はあ、まあ、翻訳に魔法を使いはしてますけど……自分ゴブリンと言っても、上位のゴブリン・なんで。召喚に応じられたのも、魔法使えるからですし。まあそうでなくとも、言語を操れるのが人間だけって思いこむのも、人間らしい傲慢さだな~って思いますけどね。ハハッ』


「よ、余計なお世話じゃい! て、ていうか召喚って、そういうもんなのか? ……あ、いやいや! 妖精を召喚できるって聞いたのに、何でゴブリンなんだよ! おかしいだろ――」


『いやぁ……う~ん……えーと、あなた、お名前は?』


「えっ……ショージだけど……」


『じゃあ、ショージさん。おっと失礼、自分、ゴビーと申します。んで、ですね?』


 割と礼儀正しく自己紹介したゴブリン……ゴビーが、ショージへと告げるのは。


『ショージさんが言ってるのって、多分ピクシーとかフェアリーとかの話じゃないかなって思うんですが』


「そ……そうだよ! そういう可愛いカンジの妖精ちゃんと、今日からキャッキャウフフの共同生活をですね――」


『ゴブリンも、妖精の分類なんですよ』


「えっ。……えっ?」


『いえまあ、そういう反応されがちですけどね、先入観とかで。アレでしょ、どっちかっていうとモンスターとか、えーとここは日本か……じゃあ妖怪とか鬼とか? イメージ的には餓鬼とかが近いかな?』


「アッハイ。……く、詳しいッスね……」


『まあゴブリンて言ってもシャーマンなんで、こう……魔法で異世界を覗いたり、多少はね? ……で、話を戻すんですが……ゴブリンも妖精なんで、今回の召喚の定義から外れてないんですよ。だから、どうしてもっていうなら、ピクシーとかフェアリーとかで限定しといたほうが良かったですねぇ』


「えっ。……そうなん、スか……あの、え~っと……やり直しとかって……」


『この術式、一回こっきりっぽいんで、無理ですねぇ』


「ウッウワアァァァ! なんてこったぁぁぁぁ!!」


 重ねてお嘆きになるショージ、だがゴビーは神妙な様子で、容赦なく詰めていく。


『ショージさん、そうは言いますけどね……逆にピクシーとかフェアリーとか、そんなに平和な存在だと思ってます?』


「ううっ……えっ? や、それは……そうでしょ、小さくて、可愛くて……」


『まあ見た目は、そうでしょうが……でも妖精って、基本的に〝イタズラする存在〟なんですよ』


「そ、それくらい何となく分かりますよ。でもイタズラなんて可愛いもんで――」


『しばしば針で刺してきたり、寝てる間に指の爪を剥がしたり耳ちぎったり、木の上に置き去りにしたりするのでも?』


「しゃっシャレになんねーわ何だその怖いイタズラ!? いやもう拷問ってレベルなんですけど!?」


『目的が無いんで拷問とかじゃなく、やっぱイタズラでしかないんですけどね……他にも人間基準でシャレにならない話なら、取り替え子とかもありますけど。まあ下手すればレッドキャップとか召喚されて映画の〝グレ〇リン・ゴアハード版〟みたいになっちゃう可能性もあるんですよ。何なら下水溝から〝ハァイ♪〟とか呼びかけられて引きずり込まれるのが基本レベルっていう』


「レッドキャップはよく分からないッスけど、グレ〇リンとかのくだりで良~く理解できちまいましたよ! いや本当、こっちの世界に妙に詳しいな……」


『まあそういうのを避けるために、自分みたいなのが召喚に応じて、説明するようにしてるワケですよ。……それに、個人的な欲求も満たしたいんでね……』


「!? こ、個人的な……欲求、だと……? い、一体……!?」


『……ククク……クックック……!』


 妙に行儀よく理性的な語り口に、惑わされていたのかもしれない――今ショージの目の前にいるのは、ゴブリン。そう、ファンタジーにおいては定番の悪役にして、によっては狡猾で残酷な性質の怪物――


 そんなゴブリンの中でも、魔法まで操るシャーマンという恐るべき存在、ゴビーが述べる欲求とは――!?



『自分、この異世界の――日本の文化が好きなんですよ、特にアニメとかゲームの。バリバリが刺激されましてね。だもんで、ちょっと一緒に住ませてもらえません? ホームステイ留学みたいなもんと思って頂ければ……迷惑もかけないんで』


「ゴブリンでシャーマンでオタクなワケ!? ってかイヤだよゴブリンと同棲とか! そもそも今日、初めて会ったばかりだっつう――」


『ショージ……マイ、フレンド……』


「アンタがこっちの文化ホントに好きなんだな~ってコトだけは、喋るゴトに理解してるけども! チクショウ、なんで、なんでこんなコトに……俺が……俺が可愛い妖精さんとキャッキャウフフしたいと願ったばかりに――!」


『まあまあ自業自得だと思いますけどねぇ』


 最後までゴビーに尤もな詰められ方をする、そんなショージが――半ば強制的に〝ゴブリンとの同棲生活〟を強いられることになってしまう。


 ちょっぴり(かなり)迂闊で夢見がちなだけの、ただの人間でしかないショージが……妖精の分類ではあるものの、恐るべきゴブリンと、どのような生活を送ることになるのか。


 この先にあるのは、きっと――及びもつかぬような、地獄であろう――




 ~ ……ちょっぴり後日談…… ~




『―――ショージさん、ゴミはちゃんと分別して出さないと、大家さんにめっちゃ怒られるんで気をつけてくださいね。あと洗濯物、色落ちとか色移りするから、適当に詰め込んじゃダメですよ。あ、ちょっとアトラクションのバイトいってきますけど……シチュー作っといたんで、温めてから食べてくださいね~』


「ゴビーさんメッチャ気が利くし生活力も高いしで、逆にコッチが人間なのが申し訳なくなるんですけど!?」




 ~ ★ゴブリン同棲END★ ~

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